研究課題
脂肪滴は細胞質に普遍的に含まれる構造体(オルガネラの1つ)である。本研究では初期発生、特にマウスの卵子や受精卵に含まれる脂肪滴の動態観察や機能解析を通してその生理学的意義を明らかにするのが最終的な目的である。脂肪滴の含有量は動物種ごとに異なるが、マウスやヒト卵は比較的少なく発生過程における動態をより鮮明に観察できるメリットもある。これまでの研究期間内に、受精によって脂肪滴はダイナミックにその形態や局在を変化させることを明らかにした。特に受精前は一つ一つの脂肪滴が集合体を形成する傾向が強く、受精によってこれらの集合体が分散することを初めて明らかにした。今年度は、脂肪滴の「オートファジーによる分解」に焦点を当てて研究を遂行した。一般的にオートファジーは選択性のない分解系であるが、アダプター分子を介した選択的分解が起こることが近年報告されている。そこで、オートファジーによる卵細胞質内の脂肪滴分解の可能性について検討した。その結果、受精後のマウス初期胚では、一般的なリポリシスによる脂肪滴分解が主要な分解経路として優先的に機能しているが、脂肪滴の一部はオートファジー依存的かつ選択的に分解されることが明らかとなった。また、オートファジーのアダプター分子を脂肪滴に局在させることで、オートファジーによる選択的な脂肪滴分解(リポファジー)を人工的に誘導できることも分かった。さらに、オートファジーによって脂肪滴の含量が低下した受精卵は、その後の胚発生能が低下することも明らかになった。これらの結果は、卵細胞質に含まれる脂肪滴の分解に受精後のオートファジーが新たに関与しうる可能性があるだけでなく、卵細胞質の脂肪滴の含有量を一定に保持することが卵細胞質の品質維持に関与することを示唆していると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り研究を遂行することで、予想された結果と共に新たな分子メカニズムを見出すことができ、新規の着想に至っている。一方で、研究成果を公開するための論文執筆に遅れが生じている。これらを総合的に考えて、「おおむね順調に進展している」という区分を選択した。
今後の研究に関しては、基本的には当初計画した通り進める予定であるが、これまでの研究期間に見出した新しい分子機構はさらに追求する必要性もある。特に脂肪滴のオートファジーによる選択的分解に関わる機構は、未だ多くが不明である。さらにマウス受精卵に固有のプロセスで起こっている可能性もある。当初計画した研究に加えて、タンパク間の相互作用解析に精通する専門家からの意見も取り入れて、様々な角度からマウス卵細胞質に存在する脂肪滴の意義を検証したいと考えている。
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Molecular Cell
巻: 17 ページ: 835-849
10.1016/j.molcel.2016.09.037
Developmental Cell
巻: 10 ページ: 116-130
10.1016/j.devcel.2016.09.001