今年度は、卵細胞質に蓄積された脂肪滴の受精後の分解機構に焦点を当てた。受精直後から活発にオートファジーが誘導されるため、まずはオートファジー阻害条件下における脂肪滴の動態観察を行い、さらにオートファジーの選択的基質を介したオートファジーによる脂肪滴の選択的分解(リポファジー)の可能性についても検討を加えた。受精後のオートファジーを特異的に阻害すると、8細胞期までに胚発生は停止するが、この際に脂肪滴の大規模な蓄積は観察されなかった。電子顕微鏡を用いた観察からも、オートファジー欠損下における明確な脂肪滴の蓄積は観察されなかった。そこでリパーゼ阻害剤で受精卵を処理すると、発生に伴い脂肪滴が蓄積することが明らかとなった。このことから、受精後に起こる脂肪滴の分解は、主にリパーゼが担っていると考えられる。次に、受精後に活発に起こるオートファジーによって脂肪滴を人工的に分解させることで、オートファジーによる脂肪滴の選択的分解の可能性を検討した。この目的のために、オートファジーの選択的アダプターを脂肪滴上に発現させたところ、卵細胞質中で分散していた脂肪滴が凝集し、細胞膜の近傍へ移動することが明らかとなった。電子顕微鏡を用いた解析から、細胞膜近傍に運ばれた脂肪滴の周辺には多数のリソソームが局在することが分かった。これらの結果は、脂肪滴の表面上にオートファジーアダプターを発現させるだけで、内在性のオートファジーの活性によって脂肪滴が選択的に分解されることを示唆しており、受精直後のオートファジーによって脂肪滴の品質管理が行われる可能性も考えられる。なお、我々はこのようなオートファジーを利用して脂肪滴を分解させる機構をForcedリポファジーと名付けた。
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