我々は昆虫にみられる宿主-細菌間相互作用の分子機構の総合的理解を目指し、昆虫では例外的に共生細菌の培養と遺伝子組み換えが可能なホソヘリカメムシ-Burkholderia共生系を対象に研究を行っている。本研究の全体構想は以下のようになる:①培養時と共生時における共生細菌の遺伝子発現比較により共生時に特異的に発現する遺伝子を同定;②共生時に特異的に発現亢進する遺伝子の欠損株を作成し機能解析を行う;③得られた知見を統合し、内部共生の遺伝的基盤を網羅的に解明する。最終年度である本年度は、昨年度までに得られた培養時(in vitro)と共生時(in vivo)における共生細菌の細胞学的比較、運動性比較、生理学的比較、抗生物質等への耐性比較、遺伝子発現比較に関するデータについて取りまとめ、(1)共生細菌はカメムシ腸内において宿主免疫系による生育阻害(生育調節)を受けている可能性があること、(2)共生細菌の機能としては宿主の代謝老廃物のリサイクリングである可能性が高いことを明らかにした。ほとんどの昆虫共生細菌は宿主体外での培養が困難であることから、in vitroおよびin vivo細菌細胞の比較は一般的に不可能だと考えられてきた。しかし今回、培養が容易なホソヘリカメムシのBurkholderia共生細菌を用いることでin vitro細胞とin vivo細胞の総合的比較が可能となり、これら共生細菌がどのような代謝変化によって昆虫の体内環境に適応しているのかが初めて詳細に解明することに成功した。本成果は原著論文としてまとめられ、国際一流誌に掲載される運びとなった。In vivoで特異的に高発現している遺伝子の機能解析にはさらなる研究進展と情報蓄積が必要であると考えられる。
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