ポリイソプレンを主成分とする天然ゴムならびに合成ゴムは、広範な分野で利用される不可欠な資源であるが、需要の拡大とともに将来的な廃棄物の増大が予想されている。それらゴム廃棄物は、焼却や埋立てによ り処理されているのが現状であり、温室効果ガスの増加や環境負荷が懸念されている。本研究では、増大し続けるゴム廃棄物の再資源化システムの確 立を目指して、ゴム分解菌の分解メカニズムの解明を目的とした。 当該年度では、ゴム分解細菌E1株のゴム分解能の強化を目的として、昨年度までに同定したゴム分解lcp遺伝子を細胞内に相補した株の作出を行なった。得られた相補株においては、lcp遺伝子が構成的プロモーターによって発現できるようになっている。相補株の培養菌体を用いて、液体培地中でのラテックスグローブの分解を調べた結果、野生株と比較して分解の開始が早まることが示された。これは、通常状態で発現の誘導が必要なlcp遺伝子が構成的に発現したことに起因すると考えられる。 さらに、E1野生株のラテックスグローブ分解におけるLcp酵素の役割を明確にするために、野生株の反応液に精製したLcp酵素を添加し、分解能の向上に寄与するかを調べた。その結果、細胞内で構成的にlcp遺伝子を発現させた場合と同様に分解開始の早期化が確認された。 その一方で、lcp遺伝子の発現制御機構は明らかにされていない。そこで、本遺伝子の転写制御に関わる因子の探索を行った。他のゴム分解性放線菌として知られる、Actinoplanes属やStreptomyces属ではE1株と同様にlcp遺伝子の近傍にTetR型転写制御因子をコードする遺伝子の存在が示されている。そこで、E1株の当該遺伝子がlcp遺伝子の転写制御に関わるかを明らかにするため、ゲノム編集技術を用いた遺伝子欠損株の作製を行った。現在、当該変異株の解析を行っている。
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