研究課題/領域番号 |
15H05647
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
上番増 喬 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 助教 (10581829)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 代謝 |
研究実績の概要 |
胎生期の栄養状態とエピゲノム変化の関連性における重要な発見は、成人病胎児期発症説に代表される、胎生期の栄養環境が、成人期以降の疾病発症に影響を及ぼすことの発見である。すなわち、胎生期に低栄養状態に曝されることにより何らかのエピゲノム変化を生じ、加えて出生後にマイナスの環境要因が負荷されることで、後天的に糖尿病などの生活習慣病の発症リスクを増大させる。しかしながら、その分子基盤は不明である。 エピゲノム修飾の変化による遺伝子発現制御機構は、細胞の機能制御だけでなく、分化・増殖や癌化などに必須の過程である。エピゲノム修飾の調節には、ATPやアセチルCoAなど様々な低分子代謝産物が密接に関連している。細胞の栄養状態は低分子代謝産物の変動を介してエピゲノム修飾を変化させる。エピゲノム修飾の変化は転写される遺伝子を特異的に制御し、合成されるタンパク質量とその機能を調節することで結果的に細胞の機能を統御する。本研究では、低エネルギー状態で合成量が増加するケトン体のエピゲノム修飾調節作用について検討した。 ケトン体合成量および合成されたケトン体の代謝の流れは肝細胞と線維芽細胞、腎臓細胞など細胞ごとに異なっている。ケトン体代謝酵素は複数あり、その発現量は組織ごとに異なるため、各組織では異なるケトン体代謝の流れが生まれ、代謝産物の協調的変化を介して、組織特異的なエピゲノム修飾や細胞機能制御と関連することが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
様々な細胞株におけるケトン体合成量を解析した結果、ケトン体合成能の高い細胞株を見出すことができた。しかしながらケトン体合成量とエピゲノム修飾の関連性はこれまで報告されたもの(Science. 2013 Jan 11;339(6116):211-4)とは異なっていた。肝臓の細胞におけるケトン体合成の基質は、脂肪細胞からの脂肪分解により供給される脂肪酸である。一方で本細胞は、基質としての脂肪酸の有無に関わらず、ケトン体を合成することが可能であった。すなわち、ケトン体合成を含むケトン体代謝は、それぞれの代謝酵素の発現量が組織ごとに異なるだけでなく、ケトン体合成に使用される基質も細胞・組織ごとに異なることが明らかとなった。 ケトン体合成は、細胞の栄養環境に依存することが明らかとなった。本研究で予定していたケトン体合成酵素の過剰発現では、生体内ケトン体合成濃度を簡便に制御できないことが明らかとなった。そのため、ケトン体合成に必要な細胞内の代謝過程を明らかにすることを目的に今後の研究を推進していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
恒常的にケトン体を合成する細胞株を見出した。この細胞を利用してケトン体合成の調節機構を明らかにするとともに、ケトン体代謝の流れを制御し、代謝の流れとヒストン修飾の変化を検討する。さらに、この細胞ではケトン体合成とオートファジーが関連する可能性を見出している。今後の研究では、ケトン体代謝の流れがオートファジーによりどのように調節されるのかについて検討を加える予定である。また、この細胞ではケトン体酸化酵素の発現が低いため、ケトン体酸化酵素によりケトン体をエネルギー源として利用できるかの有無によりエピゲノム修飾に及ぼす影響を検討する。さらに、酸化されないケトン体を代謝する酵素量をgain of functionまたはloss of function系により調整しケトン体代謝の流れとエピゲノム修飾と細胞機能との関連を検討する予定である。
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