ヒトが生命活動を維持していく上で、外界からの栄養摂取は欠かせないものである。エネルギー摂取不足は、当該世代のみならず次世代への悪影響も懸念されている。エネルギーの不足を反映する因子としてケトン体が挙げられる。ケトン体は飢餓時に脂肪酸酸化により産生されるグルコースの代替エネルギー源である。ケトン体が必要な組織・細胞へ必要な量供給されることは生存戦略上重要であるが、その調節機構は不明である。 本研究では、ケトン体の分配に着目して検討を行った。ケトン体の産生は、組織細胞ごとに異なるとともに、ケトン体代謝酵素の発現量も組織ごとに異なることが明らかとなった。つまり、ケトン体を組織として、どんな環境下でどのように利用するかは組織ごとに異なることが考えられる。また、細胞内・外のケトン体の輸送には、10種類以上のトランスポーターが関わっており、このトランスポーターの発現量および活性も組織・細胞ごとに異なっている。また、ケトン体の輸送は、細胞外のエネルギー基質(グルコース、ピルビン酸、グルタミン酸、脂肪酸等)の濃度により変動する。また、糖尿病モデルマウスの膵島では、ケトン体代謝酵素の発現異常が見られ、膵β細胞株モデルにこの発現異常を再現すると、インスリン分泌能の低下とともにストレスに対する抵抗性の減弱が見られた。これらのことから、ケトン体は細胞内・外の濃度調節機構を有するだけでなく、その利用も含めたケトン体代謝の流れは厳密に制御されており、その異常は細胞の機能異常に関連することが推察される。
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