研究課題
あらゆる脳病態は神経細胞死を誘発し、ひいては脳機能障害を引き起こし得るが、神経細胞死に至るメカニズムは解明の余地を多く残している。近年の研究から、神経細胞死へのグリア細胞の関与が解明されつつあり、そのグリア細胞の活動の指標として細胞内Ca2+濃度上昇(Ca2+シグナル)が着目されている。実際に、神経変性疾患のモデルマウスではアストロサイトのCa2+シグナルが亢進することが報告されており、また、脳損傷ダメージがマウス大脳皮質アストロサイトにおいてCa2+シグナルを惹起し、これが脳損傷後に起こる病変および治癒過程の一部である反応性グリオシスを促進することを申請者らは確認している。このように、アストロサイトCa2+シグナルが神経細胞死のキーファクターのひとつである可能性が考えられる。そこで本研究では、アストロサイトIP3分解酵素を観測/コントロールする手法と網羅的遺伝子発現解析を合わせて行ない、アストロサイト由来の神経細胞死制御因子・パスウェイの新規同定を目指す。本年度は、昨年度までのCa2+シグナル解析をより広範囲に適用した。具体的には、二波長の光路を内蔵したビームスプリッターシステムおよび高感度CMOSカメラを搭載した実体顕微鏡システムを用いて、アストロサイト特異的YC-Nano50発現マウス大脳皮質全体のCa2+シグナルを測定する実験系を構築した。これを用いて、麻酔下マウスの大脳皮質に損傷刺激を与えると大脳皮質全体のCa2+レベルが上昇することを見出し、その時空間動態を詳細に解析した。この結果をもとに、損傷後にCa2+レベルが上昇する脳部位をサンプリングし、オミクス解析に着手中である。
2: おおむね順調に進展している
昨年度までの実績で損傷時Ca2+シグナルの伝搬領域が広範囲であることを明らかにしたが、オミクス解析のサンプルにするためにはより広範囲の解析が必要であった。そこで本年度は、大脳皮質全体を観測できるシステムを構築した。これにより、オミクス解析の標本を調整する際の理由付けが確実なものとなった。また、これをもとにサンプルを調製し、網羅的発現変動解析に着手しており、研究が予定通り進捗していると言える。
Ca2+シグナル伝播様式およびキネティクスをさらにイメージング解析で明らかにするとともに、現在進行中のオミクス解析を完了させ、興味遺伝子の決定を行う。また、トランスクリプトーム解析だけでなく、プロテオミクス解析も視野に入れて研究を展開する。興味遺伝子の決定後は、その発現変動のCa2+依存性をCa2+シグナル欠損マウスを用いて評価することにより、さらなる検証をすすめる。
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