研究課題
ハダカデバネズミ(naked mole-rat, NMR)はアフリカに生息する、低体温(32℃)かつ珍しい外温性の哺乳類である。また異例の長寿命(平均28年)・癌化耐性という特徴を有する。本申請研究では、ハダカデバネズミ特異的な個体の発生・成長・老化速度の抑制に寄与すると考えられる、ハダカデバネズミ特異的な細胞の低増殖性に着目し、メカニズム・関与因子の同定を行うことを目的としている。これまでに、ハダカデバネズミとマウスにおいて、線維芽細胞とiPS細胞の増殖速度と細胞周期を比較したところ、線維芽細胞の増殖速度はハダカデバネズミの方が遅いが、各周期の割合についてはハダカデバネズミとマウスで大きな差はなく、ハダカデバネズミ線維芽細胞は細胞周期が全体として長くなっていることが示唆された。マウスiPS細胞は、元の線維芽細胞と比べて細胞増殖速度が上昇することがわかっているが、ハダカデバネズミにおいては、iPS細胞の増殖速度・細胞周期の各周期の割合は、元の線維芽細胞と同程度であった。また、ハダカデバネズミ細胞の増殖の遅さには、温度とその他の要因の両方が影響していると考えられた。現在、詳細に細胞周期を解析するためにタイムラプス用装置の導入を行い、細胞周期モニタータンパクFucciを用いた解析系の立ち上げを進めている。ハダカデバネズミは個体レベルでの発生・成長速度も遅いことから、個体での細胞増殖の様態が異なるか解析した。その結果、ハダカデバネズミの出生後の個体の成長速度はマウスとくらべて非常に遅く、また、組織中には静止期の細胞がマウスよりも多く観察された。すなわちハダカデバネズミは細胞周期が長いだけでなく、個体内においてはさらに細胞分裂を抑制するメカニズムを持つことが考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度、in vitroで、ハダカデバネズミとマウスにおいて、線維芽細胞とiPS細胞について細胞増殖・細胞周期を解析することにより、ハダカデバネズミの増殖速度の抑制現象について一定の成果を得ることができた。また、in vivoにおいては、個体の成長速度の遅さ、また、新生仔の組織中の分裂細胞が少ないこと等の成果を得ることができており、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
細胞周期に関しては、細胞周期モニタータンパクFucciを用いて、タイムラプスにより詳細に解析を進める。また、個体での細胞増殖の様態に関しては、新生仔・adultの複数の臓器について、引き続き解析を行う。今後、こうした低増殖性がどのように規定されているのか、GHやIGFシグナル、また、温度・エネルギー産生の中心となるミトコンドリア・褐色脂肪細胞の動態に着目し、解析を進める。
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