研究実績の概要 |
本研究計画では、高速な「交配なし遺伝学(次世代型マウス遺伝学)」と、高速な「全脳イメージング(CUBIC)」技術を組み合わせ、表現型の表出に関わる責任細胞を同定する技術(個体レベルのシステム要素同定技術)の開発を目的としている。 本年度は、所属先及び理化学研究所の共同研究者らとともに稼働させたESマウス作製系を利用し、次世代型マウス遺伝学の実証実験を完了させ報告した(Ode, Ukai, Susaki et al. Mol Cell 65: 176-190, 2017, co-first)。本論文では、概日時計遺伝子Cry1及びCry2のダブルノットマウス(24時間の行動リズムが消失する表現型を示す)にCry1のレスキューカセットをノックインし、表現型の回復を個体の行動レベルで観察する系を開発した。最終的に、転写制御領域やCry1タンパク質中の変異体を含む合計20種類のレスキューカセットを準備して、Cry1/Cry2ダブルノックアウトバックグラウンドにノックインし、交配なしに解析個体を作製して行動解析を行うことに成功した。 その他、ESマウス作製系の代替・補完的技術と位置付けているアデノ随伴ウイルスを用いた細胞ラベリング系について、ウイルスインジェクションシステムを所属先に初めて導入し稼働させた。また、組織透明化と組織学的染色法を組み合わせ、細胞種を3次元データから同定する技術の開発のため、30種類以上の抗体や染色剤をテストし、CUBICとのコンパチビリティを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では「個体レベルのシステム生物学」の実現のため、2つの基盤技術の確立を目標としている。このうち、高速な「交配なし遺伝学(次世代型マウス遺伝学)」の確立および実証実験について、計画2年目までに完了させ論文報告した(Ode, Ukai, Susaki et al. Mol Cell 65: 176-190, 2017, co-first)。「全脳イメージング(CUBIC)」技術については、初年度にプロトコル論文(Susaki et al. Nature Protocols 10: 1709-1727, 2015)および関連技術を網羅的にまとめた英文総説(Susaki and Ueda. Cell Chemical Biology 23: 137-157, 2016)を発表した。特に後者については、網羅的な細胞・細胞回路解析技術が「個体レベルのシステム生物学」に資することを初めて提唱した。加えて、アデノ随伴ウイルスや3次元組織学技術の導入・開発を進めており、さらに応用例を蓄積するために研究を展開させる準備を進めている。以上の内容から、現在までに概ね順調に進展していると判断した。
|