研究課題
A群レンサ球菌は、ヒトの咽頭の常在菌であり、小児の咽頭炎や蜂窩織炎など局所感染症の起因菌である。一方で、A群レンサ球菌は、劇症型レンサ球菌感染症や壊死性筋膜炎など重篤な侵襲性感染症を引き起こす。つまり、A群レンサ球菌は、宿主に対して非常に幅広い疾患・症状を引き起こす細菌である。A群レンサ球菌は、局所感染から全身疾患へ症状が進行する際に、自身のゲノムを変化させ高病原型の菌へ変化すると考えられている。本研究の目的は、マウス感染モデルを用いてA群レンサ球菌の遺伝子発現ネットワーク解析を行い、全身感染に関わる遺伝子群を推定することである。我々は、マウス皮膚感染モデルから回収した菌をゲノム解析した結果、マウス皮膚感染時に4種の転写調節因子に変異が入ることを明らかにしている。平成28年度は、マウス感染モデルから分離された突然変異株とin vitroで作成した遺伝子破壊株のマウスに対する病原性をマウス全身感染モデルにより解析した。その結果、マウス感染モデルから分離された突然変異株とin vitroで作成した遺伝子破壊株は、両者ともマウスに対して高病原化することが明らかになった。さらに、変異によりマウスに対する病原性が一部変化することも観察された。また、これらの株の主要病原因子の遺伝子発現の比較も行った。急性胃蜂窩織炎は非常にまれな疾患である。そのため、急性胃蜂窩織炎から分離された臨床分離株の遺伝子解析を行った報告は世界的に皆無である。我々は、平成28年に急性胃蜂窩織炎患者から分離されたA群レンサ球菌株の全ゲノム解析を行った。この菌株は、侵襲性感染症を引き起こしやすい流行型emm89型の株であった。ゲノムが報告されている他のemm89型の株と比較したところ、表層タンパクSclAとMタンパク質のアミノ酸配列が異なっており、本疾患との関連性が推測された。この結果をまとめ、論文として報告した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の計画案通り、マウス感染モデルから分離された突然変異株と遺伝子破壊株の病原性をマウス感染モデルにより解析を行った。さらに、急性胃蜂窩織炎患者から分離されたA群レンサ球菌株の全ゲノム解析を行い、本疾患との関連遺伝子を推定し、論文化し報告した。このため、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
平成28年度は、マウス感染モデルから分離された突然変異株と遺伝子破壊株の病原性をマウス感染モデルにより明らかにし、病原性に関連する遺伝子発現比較を行った。平成29年度は、研究実施期間に行ってきたA群レンサ球菌の局所感染時の遺伝子変化とin vivoにおけるトランスクリプトーム解析との関連性から、局所から全身感染に移行する因子を同定する予定である。これらの結果をまとめ、論文化し報告する予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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