研究課題
A群レンサ球菌は、健常人の咽頭や消化管、表皮などに常在している一方で、小児の咽頭炎や蜂巣炎などの主な起因菌でもある。さらに、A群レンサ球菌は重篤な侵襲性感染症も引き起こし、現在毎年16万人以上が重篤な侵襲性溶連菌感染症で亡くなっている。重篤な侵襲性感染症から分離されたA群レンサ球菌は、転写調節因子などに変異が入り高病原化していることが明らかになっている。そのため、A群レンサ球菌は局所から全身疾患へ症状が進行する際に、転写調節因子などに変異が蓄積し高病原型の菌へ変化すると考えられている。本研究の目的は、マウス感染モデルを用いてA群レンサ球菌の遺伝子発現ネットワーク解析を行い、全身感染に関わる遺伝子群を推定することである。我々は、マウス皮膚感染モデルから回収した菌をゲノム解析した結果、マウス皮膚感染時に4種の転写調節因子に変異が入ることを明らかにしている。平成29年度は、今までのマウス感染モデルから分離された高病原化に関わると推測された転写調節因子のノックアウト株のトランスクリプトーム解析により、抑制性の転写調節因子が壊れることによりある遺伝子群の発現が変化することが確認された。さらに、それらの転写調節因子により制御される遺伝子群の中で、マウス感染時において付加的に発現上昇する遺伝子群を同定した。それらの遺伝子群がA群レンサ球菌の侵襲性感染症の発症に寄与していると推測された。1994年に本邦で劇症型レンサ球菌感染症患者より臨床分離されたemm3型のM3-b株の全ゲノム配列を決定し、さらに2株の劇症型レンサ球菌感染症由来株と3株の非由来株の計5株のemm3型株のドラフトゲノムを決定し比較した。比較した株間で主要病原因子の保有に違いがほとんどみられなかったことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の計画案通り、遺伝子破壊株を用いたマウス感染モデルとRNA-seq解析を行った。抑制性の転写調節因子の欠損により、ある遺伝子群がin vitroおよびin vivoの両者において発現上昇していることが確認された。その中の一部の病原因子がマウス感染下において、相加的に発現誘導していることが明らかになった。これらの因子は、A群レンサ球菌が局所から全身感染に移行するのに重要な因子であると推測された。このため、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
平成29年度は、研究実施期間に行ってきたA群レンサ球菌の局所感染時の遺伝子変化とin vivoにおけるトランスクリプトーム解析との関連性から、局所から全身感染に移行する因子を推測した。平成29年度までは、主にcoding sequenceにのみ着目していたが、平成30年度では、それ以外の領域、つまり遺伝子間隙に存在するsRNAなどの因子を解析する予定である。
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