研究課題/領域番号 |
15H05660
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
森田 真也 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (20449870)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リン脂質 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、リン脂質クラスとしてホスファチジルコリン(PC)・ホスファチジルエタノールアミン(PE)・ホスファチジルセリン(PS)・ホスファチジン酸(PA)・ホスファチジルグリセロール(PG)・カルジオリピン(CL)・スフィンゴミエリン(SM)の高感度酵素蛍光定量法を開発してきている。本年度は、リン脂質定量法を利用して、胆汁酸の細胞毒性に対するリン脂質とコレステロールの影響を評価した。胆汁酸には、細胞膜を崩壊させる強力な界面活性作用があるが、これまでどのようにして肝細胞が胆汁酸から保護されているのかについて詳細な検討は行われていなかった。本研究では、正常ヒト肝細胞ならびにヒト肝モデルHepG2細胞を用いて、様々な胆汁酸の細胞毒性を調べたところ、PCは肝細胞への胆汁酸の毒性を抑えた。一方、コレステロールは、胆汁酸に対するPCの肝細胞保護作用を弱めることが示された。さらに、そのメカニズムについてゲルろ過クロマトグラフィーならびに光散乱測定により検討を行ったところ、リン脂質は胆汁酸と混合ミセルを形成することで、胆汁酸の肝細胞への結合を防ぐが、コレステロールはリン脂質と胆汁酸の混合ミセル形成を妨げることで、胆汁酸の肝細胞への結合を増加させることが判明した。このように、リン脂質は胆汁酸による肝細胞損傷を防ぐ働きをするが、コレステロールはそのリン脂質の細胞保護作用を弱めることを新たに明らかにした。胆汁中のコレステロール増加は、胆汁酸による肝障害のリスクとなることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初より各種リン脂質クラスに対する酵素蛍光定量法の開発と基礎研究への応用を計画していた。前年度においては、PGとCLの定量法を開発し、培養細胞ミトコンドリア内のリン脂質定量分析を行い、その結果がScientific Reports誌に掲載された。本年度において、胆汁酸に対するPCの細胞保護作用をコレステロールが弱めることを明らかにし、その結果をまとめた論文がScientific Reports誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、リン脂質としてホスファチジルイノシトール(PI)や各種リゾリン脂質・スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)などの酵素蛍光定量法を開発し、網羅的なアッセイ法の確立を目標としている。これらのリン脂質の酵素蛍光定量法を、基礎研究(培養細胞実験およびモデル動物実験)に適用し、各種リン脂質と生体機能または疾患との関係を詳細に定量的に解析していく。また、臨床研究として全リン脂質クラスの血中濃度測定の確立を目指し、バイオマーカーとしてのリン脂質の可能性を探る。
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