研究課題
本研究ではバイオマーカーとしてのマイクロRNA(以下miRNA)の精度向上のために、メチル化などのエピゲノム修飾が前駆体miRNAの成熟化・機能発現に及ぼす影響をメチル化特性(3,5アデニンor 1,6シトシン)、メチル化部位とともに明らかにすることに主眼を置いて実験を進めてきた。具体的な進捗としては、低酸素、低栄養など様々なストレス環境において、前駆体miRNAに起こるエピゲノム修飾が大きく変化することを発見した。細胞ストレスにより、細胞のRNAメチル化は遺伝子特異的に変化し、このことが各RNAの安定性に変化を及ぼし、細胞の機能発現に大きく影響することがわかった。さらに、本研究では細胞株でのメチル化プロファイリングとin vitroの機能解析をつなぐアプローチとしてin silicoでのバーチャルスクリーニングを行った。その結果、エピゲノム修飾が前駆体RNAの2次構造に与える影響を、分子シミュレーションにより解析することに成功、メチル化がRNAの機能発現に及ぼす影響をタンパク-RNA相互作用のエネルギーコストから定量的に把握することが可能となった。このシステムの優れた波及効果としては、これらのデータを蓄積する事で、それぞれのRNAのタンパク結合特性とそのメチル化による変化を検出することができる点が挙げられる。今後は、消化器癌臨床検体におけるメチル化前駆体miRNA・メチル化酵素の発現と臨床病理学的因子・予後との関連を明らかにすることでこれらのバイオマーカーとしての意義を明らかにする予定である。
2: おおむね順調に進展している
RNAメチル化による癌細胞株の腫瘍形成能・悪性形質の変化をin vitroで評価している段階である。様々なストレス環境(酸化ストレス、低酸素、低栄養、リガンド刺激等)に暴露することによるRNAメチル化の変化を解析したところ、一部のRNAにおいて、腫瘍中心部を模した低栄養環境への暴露により、著しくメチル化が誘導されることが明らかとなった。大腸癌細胞株などにおいて既知のRNAメチル化酵素を含む候補メチル基転移酵素ノックダウン、並びにレンチウイルスによる強制発現細胞株の作成を終え、これらを用いた癌の形質変化に関わる機能解析を行っている。 In silicoでは、膨大な多様性が予想されるRNAのメチル化パターンと核酸分子上のメチル化が起こる部位を精確に予測するために、専用のプログラムを構築し、メチル化が加わることによるRNAの2次構造の変化と、RNA結合蛋白への結合性の変化を予測する実験を進めており、これらにより得られた知見は、in vitroの実験で検証する予定である。
RNAメチル化が細胞の機能発現に及ぼす影響をin vitro、in vivoでさらに詳しく解析することに加え、消化器癌臨床検体におけるメチル化RNA・メチル化酵素の発現と臨床病理学的因子・予後との関連を明らかにすることでメチル化前駆体miRNAのバイオマーカーとしての意義を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
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