肺動脈性肺高血圧症(以下、PAH)は、肺動脈圧の上昇から右心不全を発症しうる生命予後不良の難治性疾患である。遺伝子変異だけで病態を全て説明することはできず、epigeneticな修飾による制御が関与することを強く示唆する。一方、近年ではepigenetic制御機能を持つlong non-coding RNAs (lncRNAs)が注目されているが、PAHを含めた成人肺循環疾患においての解析は未だ報告がない。本研究では、我が国のPAH治療の拠点病院である2大学病院(慶應義塾大学病院と杏林大学病院)の連携のもと、臨床と基礎が連携し、PAH動物モデルを用いたlncRNAsの網羅的解析と機能解析を行い、gain- or loss-of-function study等を通じて、lncRNAsの肺循環領域における役割の世界初の解明を目指す。同時に、PAH患者検体を用いてlncRNAsの発現量の解析、epigenetic制御の可能性の検討、臨床指標との相関解析からlncRNAsの非侵襲的指標としての可能性も模索し、臨床への還元とlncRNAsによる個別化医療の実現を目指す。PAHの発症の基礎を動物実験でlncRNAという側面から迫りながら、日本最大規模患者サンプルネットワーク構築を通じた患者検体からのアプローチを加え、将来のPAH治療ターゲットとなる分子を探索する。 これまでの実績として、多施設共同研究として約450名の患者検体を収集しており、PAHの患者検体数としては圧倒的な日本最大規模のサンプル数である。lncRNAアレイを行い、PAH発症を制御している可能性が高いlncRNAを絞り込むことに成功している。
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