研究課題
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に伴う肝切除後肝再生障害に、様々な細胞内ストレスによる「統合的ストレス応答」が重要であること、統合的ストレス応答を軽減するGadd34が脂肪肝再生障害を改善することを見出している。本研究課題では、統合的ストレス応答制御が、NAFLDでの肝再生障害の新規治療法としての有用性を明らかにすることを目的とした。1) CHOP/ATF3作用阻害の有用性: 統合的ストレス応答により増加する転写因子CHOPまたはATF3は、肝障害を引き起こすことから、肝再生過程における両転写因子の増加は、再生障害と密接に関与する可能性が高いと考えている。ATF3のNAFLDでの肝再生障害における役割を解明するために、肝臓特異的ATF3欠損マウスでの、脂肪肝切除後肝再生を評価した。正常肝・中等度脂肪肝では、ATF3欠損による肝再生への影響を認めなかった。一方、中等度脂肪肝での統合的ストレス応答増強時には、脂肪肝切除後再生過程において、ATF3欠損マウスで、統合的ストレス増強前と同程度にまで血中ALT値の改善、肝細胞死の抑制を認めた。以上のことは、NAFLDでの肝再生障害の新規治療標的としてATF3が有用である可能性を秘めており、さらに詳細の分子メカニズムの検討が必要とされる。NAFLDでの肝再生障害における転写因子CHOP作用阻害の有用性を解明に関しては、CHOP欠損マウスのコロニーの確立を行っており、今後、脂肪肝モデル及びNASHモデルでの再生過程を検討していく。2)ストレス性RIP3誘導の機序と阻害の有用性: 代表者らは、脂肪肝再生過程における統合的ストレス応答の増強によるネクローシスの惹起にTNFα誘導性壊死因子RIP3の発現亢進が関与することを見出している。RIP3欠損マウスに対し、脂肪肝モデル及びNASHモデルを作出し、肝再生過程を検討していく。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、本研究課題におけるツールであるCHOPノックアウトマウス、ATF3ノックアウトマウス、RIP3ノックアウトマウスのコロニーの確立は終わっている。また、これらのマウスを用いた、正常肝に対する70%肝切除を行い、切除後肝再生過程にこれら因子が作用しないことを確認している。また、ATF3欠損マウスを用いた、脂肪肝再生過程の検討により、ATF3が肝細胞死を抑制し、肝再生を改善することを見出しており、現在までの進歩状況としては、概ね順調であると言える。
本研究課題では、統合的ストレス応答制御が、NAFLDでの肝再生障害の新規治療法としての有用性を明らかにすることを目的としている。具体的には、CHOP、ATF3、またはRIP3の作用阻害の有用性を明らかとする。昨年度は、ATF3ノックアウト脂肪肝マウスでの検討を行っている。本年度は、ATF3ノックアウトNASHモデルでの肝切除後再生過程の検討を行う。さらに、昨年度コロニーの確立を行ったCHOPノックアウトマウス、RIP3ノックアウトマウスに対し、順次、脂肪肝モデル、NASHモデルを作出し、肝切除後肝再生過程の検討を行う。評価は、肝切除後の肝重量体重比、血中AST/ALT値、肝臓遺伝子発現変化に加え、肝細胞増殖をBrdU染色により、肝細胞死はタネル染色により行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件)
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