研究課題
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)における肝再生障害は、肝切除術後合併症の発症と密接に関連する。代表者は、脂肪肝での肝再生障害に、タンパク翻訳因子eIF2αリン酸化、すなわち「統合的ストレス応答」が、主要な役割を果たす事、さらには、リン酸化eIF2αを脱リン酸化するGadd34が脂肪肝再生障害を改善することを見出している。脂肪肝において、統合的ストレス応答は、細胞増殖関連タンパクの翻訳抑制による細胞増殖障害のみならず、炎症誘導性転写因子の発現誘導による細胞死の増加を引き起こし、肝再生を障害する。本研究課題では、核酸医薬の進歩を視野に入れ、分子ノックダウンなどの分子特異的な機能阻害法を用いて、統合的ストレス応答を制御し、NAFLDでの肝再生障害の新規治療法としての有用性を明らかにすることを目的とする。肝再生過程の統合的ストレス応答は、脂肪肝亢進に伴い増大する。また、発現亢進により肝障害を引き起こすことが知られている転写因子が、統合的ストレス応答増強に伴い増加する。本年度の研究では、脂肪肝亢進に伴い、脂肪肝再生過程におけるこれら転写因子の発現が増加することを見出した。脂肪肝再生過程では、中等度脂肪肝(肝細胞の30%に脂肪滴)ではアポトーシスが亢進し、高度脂肪肝(肝細胞の60%以上で脂肪滴)ではネクロプトーシス(制御されたネクローシス)が増強することで肝再生が障害されることを明らかにしている。そこで、これら転写因子の欠損による影響を検討した結果、正常肝・中等度脂肪肝では、差を認めなかったものの、高度脂肪肝では、異なる様式の細胞死を抑制することにより肝再生障害を改善することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
脂肪肝再生障害において、異なる様式の細胞死が誘導されるが、なかでも壊死巣の消失が重要であることを見出した。さらに、その分子メカニズムとして、脂肪肝の亢進に伴い増加する転写因子を介した、統合的ストレス応答の増加が重要であることを明らかにしており、現在までの進歩状況としては、概ね順調であると言える。
昨年度は、脂肪肝再生過程で生じる壊死巣の消失が重要であることを明らかにした。本年度は、この壊死巣の誘導メカニズムとして、アポトーシスまたはネクロプトーシスのどちらに由来するかを明らかにする。さらに、脂肪肝再生過程で誘導される異なる様式の細胞死の選択メカニズムの検討も行う。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件)
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