研究課題
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)における肝再生障害は、肝切除術後合併症の発症と密接に関連する。代表者は、脂肪肝での肝再生障害に、多様な細胞内ストレスに共通して誘導されるタンパク翻訳制御因子eIF2αのリン酸化、すなわち「統合的ストレス応答」が、主要な役割を果たす事を見出している。脂肪肝再生過程では、統合的ストレス応答の増強に続き、ストレス誘導性転写因子CHOPおよびATF3の発現が増加し、細胞死が誘導され、肝再生が障害される。本研究課題では、「統合的ストレス応答の制御によるNAFLDでの肝切除後肝再生障害の新規治療法の解明」を目的として、統合的ストレス応答関連分子の作用阻害の有用性を検討することを目的とした。脂肪肝再生過程において、中等度脂肪肝(肝細胞の30%に脂肪滴)ではアポトーシスの誘導により、高度脂肪肝(肝細胞の60%以上で脂肪滴)ではアポトーシスの増加に加え、壊死巣を伴うネクロプトーシス(制御されたネクローシス)が誘導されることにより、肝再生が障害されることを明らかにした。脂肪肝の進行と共に、肝再生過程で生じる統合的ストレス応答が増大するが、特に高度脂肪肝では、ATF3が強く発現した。そこで、ATF3欠損による高度脂肪肝の再生への影響を検討した結果、脂肪肝再生過程における細胞死様式の選択にATF3が関与する可能性を見出した。しかし、詳細なメカニズムは明らかにはなっておらず、その解明は今後の課題である。
2: おおむね順調に進展している
統合的ストレス応答が増強した脂肪肝における再生障害では、脂肪肝再生過程で生じる壊死巣が重要であること、この壊死巣の誘引となる細胞死様式としてネクロプトーシスが重要であることを見出した。実際、脂肪肝再生過程では、細胞死としてアポトーシスとネクロプトーシスが誘導されるが、ネクロプトーシスの抑制が壊死巣を消失させ、肝再生が改善させることを明らかにしている。よって、現在までの進歩状況としては、概ね順調であると言える。
昨年度は、脂肪肝再生過程で生じるネクロプトーシスを阻害することで壊死巣が消失し、結果として肝再生が改善することを明らかにした。本年度は、脂肪肝再生過程における統合的ストレスの多寡により、異なる細胞死様式が誘導される仕組みの解明に取り組む。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Nature Communications
巻: 9 ページ: 30
doi: 10.1038/s41467-017-02537-6
Diabetes
巻: 66 ページ: 1008-1021
10.2337/db16-0881