非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)における肝再生障害は、肝切除術後合併症の発症と密接に関連する。代表者は、脂肪肝再生障害に、多様な細胞内ストレスに共通して誘導される「統合的ストレス応答」が、主要な役割を果たす事を見出している。脂肪肝再生過程では、統合的ストレス応答の増強に続き、ストレス誘導性転写因子CHOPおよびATF3の発現が増加し、細胞死が誘導され、肝再生が障害される。本研究課題では、「統合的ストレス応答の制御によるNAFLDでの肝切除後肝再生障害の新規治療法の解明」を目的として、統合的ストレス応答関連分子の作用阻害の有用性の検討を行った。 脂肪肝再生過程では、脂肪肝の進行と共に、統合的ストレス応答が増大し、異なる様式の細胞死(アポトーシス・ネクロプトーシス)が誘導された。特に、高度脂肪肝の再生過程では、壊死を伴うネクロプトーシスが惹起され、重篤な肝再生障害を引き起こした。この重篤な再生障害を引き起こす、脂肪肝の再生過程では、ATF3の発現が強く誘導された。このような再生障害におけるATF3の役割を明らかにする為に、ATF3欠損マウスを用いて、高度脂肪肝再生過程の検討を行った。ATF3欠損により、脂肪肝再生過程で生じるネクロプトーシスが抑制され、再生障害が軽減した。このことから、脂肪肝再生障害の起因となるネクロプトーシスの誘導にATF3が関与する可能性が示唆された。しかし、詳細なメカニズムは明らかにはなっておらず、その解明は今後の課題である。
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