昨今のB型およびC型ウイルス性肝炎治療法の開発は著しく、ウイルス排除によりその進行・増悪を抑制することが可能となっている。しかしながら、ウイルス排除後の非代償性肝硬変にはいまだ治療法はなく、新規治療法の開発が希求されていた。そこで我々は肝線維溶解による肝機能の回復、治療を目指し、肝線維溶解のツールとして細胞治療を選択することとした。 本研究者らが見出した脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)は、経静脈的投与により肝線維溶解作用を有するものの、投与後の細胞の生存率が低く、十分な機能が期待できない可能性がある。そこで、投与法を再考、経門脈的/経動脈的投与についても検討したが、経門脈的投与にあっては投与細胞が肝小葉triad周辺のみに集簇、経動脈的投与にあっては投与細胞のほとんどが肝実質を通過して肺へと到達し、経静脈的投与とdelivery効率が変わらなかった。この点を改善すべく、細胞をシート化して硬変肝の表面に貼付・移植することとした。 はじめに、シート化条件の検討としてTGF-β添加培養を試みた。シート化成功率は良好であったが、コラーゲンmessageの増加、抗炎症サイトカインの発現低下を認め、細胞増殖速度の増加という利点を考慮しても、TGF-β添加培養は肝硬変症へ適用する細胞調製には不適であると考えた。次に、温度感受性培養皿の前処理法を改善し、シート化効率を高めた。得られたADMPCシートを四塩化炭素肝硬変モデルラットに移植したところ、コントロール群では2.01%の線維化率であったものが、ADMPCシート投与群では0.97%に改善を認めた。 通常用いられるADSCでは1.37%、骨髄由来間葉系幹細胞では1.59%、羊膜由来間葉系幹細胞では 1.12%であり、これらと比較してもADMPCシートは他組織由来間葉系幹細胞シートよりも治療効果が高いことが推定された。
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