昨年度までの研究で、Muse細胞移植の脳深部白質梗塞に対する有効性(Muse細胞の神経細胞への分化/行動学的改善)、およびMuse細胞の作用メカニズム(白質の再建)について解明した。また、間葉系幹細胞と比較して、Muse細胞移植の優越性を証明できた。 本年度は、将来的なMuse細胞移植の臨床応用を見据えて、Muse細胞の安全性試験を中心に研究を推進した。Muse細胞を移植して1年が経過したマウス脳切片に対して、組織学的検討を行った。Muse細胞は脳実質内に生着していたが、その多くは神経細胞に分化しており、分裂能を失っていた。H&E染色上、腫瘍を形成した個体を認めず、腫瘍死した個体はなかった。以上の結果から、Muse細胞移植の長期的な安全性について一定の検証を行うことができた。 また、臨床でのMuse細胞移植に際して、免疫抑制剤の併用が必要であるかを検証した。免疫抑制剤を投与したマウス群と投与しなかったマウス群で、Muse細胞移植の治療効果に違いはなかった。免疫抑制剤を投与しなかったマウス群の脳切片を組織学的に検証したところ、神経細胞に分化したMuse細胞が生着していた。以上の結果から、Muse細胞移植に際して免疫抑制剤の投与は必ずしも必要ないことが証明された。 MACS法によるMuse細胞分離では、動物由来の蛋白が製剤に混入するため、将来的な臨床応用に際して問題となる可能性が危惧された。現在、MACS法に加えて、ラマン分光やSTEAM法を用いたMuse細胞の分離を試みており、臨床への速やかな意向を目指している。
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