研究課題
星間水素ガスの高温成分(WNM)と低温成分(CNM)の理解のため、磁気流体力学による数値計算結果(Inoue and Inutsuka 2012)を用いて、太陽系近傍の紫外線観測との比較から、H2/HI比が観測に合うモデル(進化時間0.5Myrs)について、21cmスペクトル観測をシミュレートし、Fukui et al. (2015) (以後、F15)他で示された解析手法を検証した。この結果、次の結論を導いた。水素ガスの運動温度は10-5000Kに広く分布し、CNMとWNMはほぼ同程度の質量を担う。F15の導いたスピン温度Tsは、さまざまな値をとるTsの「視線上の調和平均」と理解でき、主にCNMのTsを反映する。これは吸収係数が1/Tsに比例するために、WNMの光学的厚みが極端に小さいことによる。HIスペクトルの光学的厚さは1程度であり、F15の結論「21cmスペクトルが光学的に厚い」を支持する。また、WHI-NHプロットでのH2の寄与は小さい。つまり「CO dark H2」は少なくとも太陽系近傍では効かず、光学的に厚いHIのみで理解できる。本シミュレーションによるCNMの空間分布は極度にフィラメンタリーであり、空間的なfilling factorは小さい。その間の空間はWNMによって満たされている。吸収線観測から導かれる光学的厚みが小さいと指摘されて来たが、この原因の一つはfilling factorにあることが本解析で示された。HIの分布は極度に非一様であり、光学的厚さが小さい部分が観測領域の70%を占める。この他、ガンマ線解析、ダスト放射解析等による成果も上がっている。新受信器NASCO(115GHz帯の4ビームと230GHz帯1ビーム)の光学系の設計を、物理光学手法シミュレーターを用いて完了し、現地にて抵触なく設置できることを確認した。100GHzの1ビーム受信機の開発を行った。電磁界シミュレーターを用いて偏波分離器と導波管型片バンド透過フィルター、局部発振信信号を分配する導波管型回路の開発を行った。これらすべてを製作し、他の冷却装置と共に冷却試験を行った。当初どおりの仕様を満たしたことを確認し、マルチビーム受信機製作に向けた量産体制を築いた。100GHz帯、200GHz帯の中間周波数系(IF系)の設計を行った。必要な増幅器等の一部購入、性能測定を実施し、観測に必要な性能が出ていることを確認した。また、国立天文台と協力して、受信素子製作も行っている。
1: 当初の計画以上に進展している
数値シミュレーションのデータを用いて我々の星間水素の見積もりの新手法を検証できたことは今後の解析を実行する上で非常に重要であった。またこれと平行してガンマ線との比較、ダスト放射の解析もいくつかの領域について進んでいる。装置開発に関しては光学系の設計を完了させ、マルチビーム受信機の量産体制を築き、中間周波数帯の開発などが同時に進んでいる。また、これに付随して新受信機の観測に対応するよう老朽化した望遠鏡の制御ソフトウェアの開発も進んでいる。ソフトウェアについてはすでにNANTEN2に搭載し、試験中である。以上のように科学的成果、装置開発の両面で大きな進展をみせていることから当初の計画以上に進展していると判断した。
平成27年度に製作した1ビーム系のユニットの量産化を行い、実験室でマルチビームシステムを構築する。また、光学系のミラーの製作も行う。マルチビームシステムと光学系を合わせて総合的に試験を行い、システムを完成させる。引き続き超伝導受信素子の開発・製作および観測・解析ソフトウェアの開発を行う。引き続きNANTEN2による観測を継続する。HI, CO, ダストの比較については銀河系内・系外銀河での比較を継続する。COの観測領域が広がっていくにつれて、比較領域を拡大していく。また、随時VLAにも観測提案を出し、データが得られた場合は解析を行っていく。これらの領域については同時にガンマ線との比較も実施し、星間ガスの量にかかわるパラメータをチューニングしていく。磁気流体計算との比較をさらに進めていく。特にNANTEN2を主体としたCO観測結果との比較のための計算だけでなく、ALMAの観測提案に向けて、超高空間分解能での計算も実施していく。平成27年度と同様に夏の時期に望遠鏡・ドームのメンテナンスを行う。また、発電機のオーバーホールを実施する。これらの結果を国内外の研究会・学会で随時報告する。報告の際に生じた議論、打ち合わせで出た問題点等を整理し、本研究にフィードバックする。また、これらの結果を随時論文にまとめ、報告する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 12件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 16件) 学会発表 (41件) (うち国際学会 15件、 招待講演 3件)
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