現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 星周および原始太陽系円盤における凝縮プロセス(固体物質の生成)の研究 本研究で導入したITP装置(H27年度納入)による凝縮実験とその生成物のキャラクタリゼーション(XRD, IR, SEM, TEM)の手法を確立し、硫黄を含む系での系統的な凝縮実験に世界で初めて成功した。これにより、彗星塵や始原的炭素質コンドライトなどの地球外物質試料との比較が可能となり、「8. 研究実績の概要」で述べた太陽系始原物質の形成シナリオを得ることができた。 2. 星間および太陽系天体表面における変成プロセス(固体物質の進化)の研究 安部(JAXA, 連携研究者)と共同開発した低エネルギー照射装置を用いて、太陽風を模擬した1 keVH^+粒子線照射の実験法を確立した。これにより、太陽風照射条件でのイトカワ粒子の宇宙風化層生成プロセスを世界で初めて定量的に議論することができた。一方、摩耗実験からは、イトカワのような小天体表面では摩耗は起こり得ないことが明らかとなり、イトカワ表面での宇宙風化を含むレゴリス粒子の生成と進化を見直すことが必要となった。 3. 太陽系始原物質(彗星塵と隕石)の3次元構造の研究 本研究により開発した放射光CT(dual-energy tomographyとSIXM)を統合した吸収-位相3色CT(化学組成と密度情報をもつ3次元構造が100nmの分解能で取得できる)の定量精度を上げ、太陽系始原物質への応用を進めることができた。CTにより初めて見いだすことができた超多孔質岩相を、CTと研磨片のSEM観察を併用することにより、効率よく見いだすことができるようになり、今後多くの試料に適用できることがわかった。また、TEM/EDS-CTにより、100nmサイズのサンプルで3次元元素分布を得ることが可能となった。これにより、始原的炭素質コンドライトに見出した輝石プレソーラー粒子は、金属鉄ナノ粒子を核として不均一核形成により生成されたことを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
1. 星周および原始太陽系円盤における凝縮プロセス(固体物質の生成)の研究 ITPを用いた硫黄を含む系での凝縮実験を、出発物質組成(Na, Al, Ca, Niを含む複雑系など)や凝縮条件(系統的な酸化還元条件や冷却速度)を変えておこない、彗星塵や始原的炭素質コンドライトなどとのより詳細な比較をおこなう。また、すでに始めているAl_2O_3-SiO_2系での非晶質珪酸塩粒子の凝縮実験を、MgOなどの成分を追加するなどさらに進め、Alに富む星周塵生成についての理解を、天文観測と比較しながらおこなう。 2. 星間および太陽系天体表面における変成プロセス(固体物質の進化)の研究 低エネルギー照射装置を用いたイオン照射実験については、4 keV He^+や1 keV H^+との同時照射をおこない、イトカワや月レゴリス粒子についての太陽風照射による宇宙風化プロセスの総合的な理解を得る。摩耗実験を進めて、粒子の物性(例えば強度)や運動速度と磨耗速度との一般的な関係を定量的に求める。照射実験や磨耗実験の結果は、イトカワや月粒子だけでなく、「はやぶさ2」探査機で2020年に地球帰還予定の小惑星「リュウグウ」サンプルの予言にも適用する。さらに、ITPによる凝縮実験で作成した、GEMSやGEMS様非晶質珪酸塩を用いて、粒子線照射実験や水質変成実験をおこない、太陽系始原物質の変成作用の理解を進める。 3. 太陽系始原物質(彗星塵と隕石)の3次元構造の研究 いくつかの始原的炭素質コンドライトについて、超多孔質岩相など最も始原的と考えられる岩相を探索し、それらの多様性の有無についてさらに調べるとともに、彗星塵サンプルとの比較をおこなう。1で述べた凝縮実験とも比較し、太陽系始原物質の形成シナリオの検証をめざす。また2で述べた粒子線照射実験をもとにして、太陽系始原物質に粒子線照射の痕跡を探索する。水質変成を受けた岩相についても詳細な分析をおこない、2で述べた水質変成実験と比較する。これにより、水質変成プロセス(とくにその始まり)の詳細な理解を得るとともに、水質変成を受ける前の状態の推定を試みる。また、水質変成時に流体から析出したと考えられる鉱物粒子中のナノサイズ包有物に、46億年前当時の流体が残されている可能性を見出したので、これについての検証もおこなう。 4. 全体のまとめ 以上述べた研究を統合して、太陽系固体原材料物質の物質科学的解明を目指す。
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