研究課題
1. 星周および原始太陽系円盤における凝縮プロセス(固体物質の生成)高周波誘導熱プラズマ(ITP)装置を用いた凝縮実験での微粒子生成プロセスを明らかにし、彗星塵中のGEMS(非晶質珪酸塩微粒子)や始原的炭素質コンドライト(CC)中のGEMS様物質の形成モデルを構築、GEMSの太陽系起源を示すとともに、初期太陽系でのGEMSとコンドリュールの同時生成の可能性を提案した。2. 星間および太陽系天体表面における変成プロセス(固体物質の進化)低エネルギーイオン照射装置による太陽風照射を模擬したH^+, He^+ビームの鉱物への照射に加えて、CCへの照射実験を行い、小惑星リュウグウの赤外反射スペクトルとの比較を行った。摩耗実験をもとにレゴリス粒子の摩耗速度の定式化を行い、イトカワ粒子の摩耗は母天体上で起こったことを示した。ITPにより作成した非晶質珪酸塩微粒子を用いたその場水質変成実験により、CCが受けた水質変成作用の初期プロセスを明らかにした。3. 太陽系始原物質(彗星塵と隕石)の3次元構造ナノX線CT、FIB、TEMなどを用いた3次元構造分析による始原的CC中の超多孔質岩相(「氷の化石」)や、水質変成を受けたCC中のCO2に富む流体包有物の発見をもとに、H_2OやCO_2雪線との位置関係から隕石母天体の形成領域を求め、最近のダイナミックな太陽系形成論の物質科学的な証拠を示した。新たな始原的CC(Paris、A12169隕石)の3次元構造分析より、超多孔質岩相やエンスタタイトウィスカー(彗星塵に特徴的な高温凝縮物)が普遍的に存在することがわかった。4. 太陽系始原物質進化のモデル化以上より、太陽系始原物質の非晶質珪酸塩は、初期太陽系においてコンドリュールとともに局所的な加熱プロセスにより、太陽系の様々な領域で形成されたという、新しい太陽系始原物質進化モデルを提唱した。
2: おおむね順調に進展している
1. 星周および原始太陽系円盤における凝縮プロセス(固体物質の生成)本研究で導入したITP装置による凝縮実験と生成物の分析手法を確立、GEMSの成因(太陽系起源説)を解明した。また先分析太陽系での星周塵粒子生成実験も行なった。2. 星間および太陽系天体表面における変成プロセス(固体物質の進化)低エネルギー照射装置を開発し、太陽風照射模擬実験によりイトカワだけでなくリュウグウで期待される宇宙風化の解明が可能となった。実験による摩耗速度の定式化により、小天体表面プロセスが解明できた。その場水質変成実験から、始原的隕石の水質変成の初期プロセスが明らかとなった。3. 太陽系始原物質(彗星塵と隕石)の3次元構造放射光ナノCTによるDET-SIXM法、FIB, TEM, nanoSIMSなどを用いた3次元構造分析法を確立し、"氷の化石"、CO_2に富む流体、エンスタタイトウィスカーの普遍性など、太陽系始原物質の形成、進化に関する重要な情報を得ることができるとともに、はやぶさ2により小惑星リュウグウから持ち帰られる予定のサンプル初期分析の準備がほぼ整った。4. 全体のまとめ以上の結果が有機的に繋がるようになり、太陽系初期の固体物質形成と進化についての新しいモデルを提唱することができた。
COVID-19パンデミックの影響により、2020年3月に開催が予定されていた惑星科学で最も大きな国際会議である51th Lunar and Planetary Science Conference (51thLPSC : アメリカ・ヒューストン)が中止された。この国際会議に出席し、本研究課題の成果を発表する予定であったが、これができなくなったため、2020年8月に開始が予定されていた国際隕石学会(METSOC2020 : イギリス・グラスゴー)でその成果を発表すべく、一部研究費の繰越を申請した。ところが、COVID-19パンデミックは収束せず、METSOC2020も中止となり、学会での成果発表はリモート学会を除き容易ではなくなった。今後は、リモート学会での発表を行うとともに、準備中の論文の投稿を急ぎ行っている。また、2020年12月に地球帰還予定、2021年7月頃に初期分析開始予定のはやぶさ2によるリュウグウサンプルの分析準備も行っていく予定である。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 13件、 招待講演 2件) 図書 (3件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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