研究課題
1. 既存レーザー光源によって数サイクルパルスを生成し、その高次高調波の帯域が十分に広く、アト秒パルスの発生が可能であることを示した。さらに、近赤外パルスと高次高調波のポンプ・プローブ実験を行いサイドバンドを観測した。また、新規導入した高繰り返しレーザーの出力パルスの時間幅を評価した。2. 数サイクルパルスを用いて、イオン収率の時間分解計測を行い、CH_3OHからH_3^+、CD_3OHからD_3^+が放出される過程を観測するとともに、時間分解CMI計測によってCH_3CN、CH_3NH_2から放出されるフラグメントイオンの放出運動エネルギーを実時間追跡した。さらに、光電子-イオンCMI装置のイオン電極と駆動回路の設計と試作を行った。また、分子配列パルスによってN_2を非断熱的にアラインメントさせ、時間遅れの後、数サイクルパルスを用いてフィラメントを生成したところ、分子の配向によって光増幅の程度が影響を受けた。3. Xe原子を標的として多光子遷移を伴うレーザーアシステッド電子散乱(LAES)過程を観測し、散乱電子のエネルギーと散乱角の測定から、個々の電子が標的原子と衝突した時刻の差をサブフェムト秒の精度で特定できることを示した。また、中空ファイバー方式のパルス圧縮装置をLAES測定実験用に整備し、二次元スペクトルシェアリング法によるレーザーパルス時間幅の測定によって、10fsを切る超短パルスの発生を確認した。さらに、生成されたレーザーパルスの時間波形を用いてLAES信号の数値シミュレーションを実施した結果、散乱電子のエネルギー分布にレーザーパルスの電場波形に由来した干渉パターンが現れることが示された。モノサイクルのTHz波パルスによるLAES過程の理論的考察を行い、10fsを切る時間分解能を持つ時間分解気体電子回折法を提案した。数値シミュレーションの結果、提案した手法によって分子の超高速構造変化を極めて高い時空間分解能で追跡できることを示した。4. 球面座標系でポアッソン方程式を解くことによって分子積分を高速に処理できるMCTDHF計算コードを作成した。このコードを使ってBe原子の強レーザー場下でのダイナミクスの計算を行い、基底関数に含めるべき最大軌道角運動量を確認した。また、H_2^+の光励起に伴う動力学を計算するための3次元の計算コードの作を完了し、光励起によるH_2^+分子の解離を適切に記述できることを確認した。また、弱く結合したHe…H_2^+の強光子場における動力学を2次元3電子状態モデルを用いて解析し、He原子の存在によりH_2^+の解離反応が抑制されるばかりではなく、電子励起に伴って化学結合の組み換え反応が起こり、HeH^+が生成することを示した。
2: おおむね順調に進展している
1. 新規に導入した高繰り返しレーザーシステムの出力評価を行ったところ、最短パルス時間幅は8 fsであった。その出力を自己位相変調によって広帯域化し、6 fsヘパルスを圧縮した。アト秒パルス発生装置とLEAD装置にレーザー光を導入するための光路系を整備した。この6 fsの達成は当初の計画以上の進展であり、圧縮されたレーザーパルスは次年度以降に時間分解CMI計測およびアト秒パルスの発生に用いるために十分な性能を持つ。2. 既存レーザーシステムによって高次高調波を発生させ、アト秒パルスの発生に十分なスペクトル帯域を持つことを確認し、さらに、ポンプ・プローブ計測を行い光電子のサイドバンドを確認した。これは研究が計画どおり進捗していることを示している。また、高い時間分解でCMI画像の実時間観測が可能となり、メタノール、重水素化メタノールのH_3^+放出をモニターすることによってCO伸縮振動などの振動モードが励起されている様子が明らかとなった。これは当初予想していなかった進展であり、今後様々な分子について解離反応過程における振動ダイナミクスを明らかにできると考えらえる。光電子-イオンCMI装置性能試験を行い、イオン検出部が十分な性能で動作することを確認した。また、光電子-イオン同時測定のため電源回路を改良し、光電子とイオンの同時測定の実現を目指している。3. LAES過程による散乱電子の角度分解エネルギー分布から電子の衝突時刻の違いをサブフェムト秒の精度で導き出せることが示されたことは、当初の計画では想定していなかった成果である。この手法を応用すれば、分子内の電子や原子核の動きをサブフェムト秒の精度でプローブできる新たな実験手法を開発することも可能であると考えられる。また、モノサイクルTHz波パルスによるLAES過程を利用した時間分解気体電子回折法の提案も当初の計画以上の成果であり、この手法が実現されれば、分子の超高速構造変形過程を高い時間分解能と高い空間分解能で追跡することが可能となると考えられる。4. レーザー場の中での3次元H_2^+分子における電子-核相関を調べるために、Ex-MCTDHF計算コードを開発し、3次元H_2^+分子の計算を進める準備が整ったところである。また、弱く結合したHe…H_2^+の強光子場における動力学計算において、HeH^+を生成する化学結合の組み換えチャンネルを理論計算に基づいて発見したことは、当初予想していなかった成果である。一方、実験から明らかになった空気中のフィラメント中での光増幅の分子アラインメント依存性を説明するために、N_2^+の3つの電子状態を含めた予備的理論計算を行ったところ実験結果を説明できることが示された。これは、当初予想できなかった成果である。
1. 新規に導入した高繰り返しレーザーシステムを更にパルス圧縮し、5 fs以下のパルス幅の数サイクルパルスを発生し、アト秒パルスを生成する。連続光によって安定化されたアト秒時間分解分光装置の整備を行う。2色の数サイクルパルスによる実験を可能とするため、既存レーザー光源の増幅器を再整備して数サイクルパルスの出力を500・J以上とし、その電場波形の評価を行う。2. 安定化されたアト秒時間分解分光装置を用いて希ガス原子および分子を試料としてイオン化における電子の動的なふるまいについての観測を試みる。時間分解CMI計測では、ポンプパルスによって生成した分子イオンの電子状態における振動波束を検出するが、プローブパルスを短波長化することによって、これまで近赤外パルスでは検出することが難しかった電子状態の観測が可能となると期待されることから、数サイクルパルスと短波長に変換された数サイクルパルスを用いた時間分解CMI計測を試みる。さらに、分子イオンの解離過程におけるレーザーパルス絶対位相依存性について計測を行う。3. パルス幅10 fsを切る数サイクルレーザーパルスによるレーザーアシステッド弾性電子散乱過程の観測を試みる。散乱電子信号のエネルギー分布と角度分布に数サイクルレーザーパルスの時間波形に依存した干渉パターンが現れることを実験的に実証し、レーザーパルスの時間コヒーレンスが散乱電子にどのように転写されるかを解明する。また、THz波によるレーザーアシステッド電子散乱過程を用いた分子イメージング法における散乱信号の解析手法を確立し、散乱信号の数値シミュレーションを実施する。さらにこの分子イメージング法を実現するために、光整流効果を用いたTHz波発生システムを開発する。4. 3次元のH_2^+に対するEX-MCTDHFコードを多原子分子にも利用できるように改訂し、H_2、C_2H_2、H_2Oなどの基本的な多原子分子の電子-核相関動力学を数値計算によって調べる。また、我々が空気中でのフィラメント実験的において見出したN_2^+のB(v=0)→X(v=0)発光の増幅機構におけるN_2^+のアラインメントの役割を、2015年に我々が提出した3電子状態(X^2Σ_g^+, A^2Π_u, B^2Σ_u^+)モデルに基づいて調べ、実験で得られているポンプ光に対するプローブ光の遅延時間依存性やポンプ光の偏光面とプローブ光の偏光面の間の角度依存性について理論的に解明する。さらに、時間依存断熱PESをトラジェクトリに沿って構築するための拡張版GO法プログラムのコード開発を行い、メタノール2価カチオンの基底状態の時間依存断熱PESを構築する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (21件) (うち国際共著 6件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (61件) (うち国際学会 40件、 招待講演 16件) 備考 (1件)
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