研究課題
本課題では、従来では実現できなかったような光・電磁波に応答する相転移物質を創成し、次世代デバイスや環境・エネルギー問題に資する新機能性に関する研究を推進することを目的としている。今回、3次元フレームワーク中に立方体のナノ空隙を多数有するシアノ架橋型マンガンー鉄フレームワークを合成した。そして、このシアノ架橋型マンガン-鉄フレームワークのナノ空隙にセシウムイオンを閉じ込めたときのセシウムイオンのフォノンモードが、1.5テラヘルツという、非常に低い周波数に孤立して存在することを第一原理理論計算により明らかにし、テラヘルツ分光測定により実験的に実証した。さらに、マンガン-鉄フレームワークは、セシウムイオン吸着材料として広く知られるプルシアンブルーよりも、高い収量でセシウムイオンを捕捉できる優れた吸着材料であることを見出した。これらの特徴にもとづき、シアノ架橋型マンガン-鉄フレームワークをセシウム検出マーカーとしてテラヘルツ分光法と組み合わせた、液中の溶存セシウムイオンの濃度を非接触で検出するという新しいセシウム検出手法を提案した。さらに、物質開発として、3次元構造を有する新規シアノ架橋型マンガン-モリブデンフレームワークを合成し、65 Kにおいて強磁性転移を示すことを見出した。この強磁性体では、その特殊な構造に起因した非線形光学効果、すなわち第二高調波発生を示すとともに、強磁性転移に伴う磁化誘起第二高調波発生を示すことも見出している。この他、希土類金属イオンとタングステンイオンが交互に架橋された1次元鎖状磁性錯体を合成し、希土類金属イオンに由来する遅い磁気緩和を示すことを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
光・電磁波に応答する物質探索の中で、セシウムイオン含有シアノ架橋型マンガン-鉄フレームワークにおいて、格子中に存在するセシウムイオンの特異なフォノンモードに帰属される1.5THzのミリ波を吸収することを見出した。このセシウムイオンのフォノンモードは、他のフォノンモードと大きく異なる周波数位置に存在するため、テラヘルツ分光により検出が容易である。また、シアノ架橋型マンガン-鉄フレームワークが、高いセシウムイオン吸着能を示すことも明らかになった。これらの新しい発見に基づき、シアノ架橋型マンガン-鉄フレームワークとテラヘルツ分光を利用した非接触かつ効率的なセシウムイオン検出の新しい方法を開発することに成功した。本手法は、放射性セシウムの非接触検出に特に有用であると考えられ、日経産業新聞、科学新聞、化学工業日報、日刊工業新聞、日本経済新聞電子版に掲載された。また、多様な構造の金属集積体を多数合成した。例えば、遅い磁気緩和を示す1次元鎖状磁性錯体や、磁化誘起第二高調波発生を示す新規な3次元フレームワーク錯体などを報告した。以上より、当初の計画以上に進展しているといえる。
今後は、上記進捗をもとに、各種アルカリ金属イオンを結晶格子中に含む金属錯体の設計、合成を行い、テラヘルツ領域の吸収特性を明らかにする。特に、アルカリ金属イオン種の違いや、フレームワークを構成する遷移金属イオンの種類によるテラヘルツ光吸収の変化を調べる。また、金属錯体の3次元フレームワークの特徴を活かし、イオン伝導性を示す金属錯体、段階的なスピン転移を示す金属錯体の合成・物性評価、および理論計算に基づいた様々な磁性体の設計、合成を行う。合成した錯体に関して、光・電磁波を用いた分光研究を推進し、電磁波と物質の相関を調べる。例えば、種々の電気的機能性を付与した多重安定性を有する三次元ネットワーク金属錯体を合成し、光誘起相転移を引き起こすことで、ドラスティックな色相変化などの光スイッチングを測定する。また、第一原理計算および分子軌道法を用いて、電子構造を明らかにし、結晶磁気異方性の起源を調べる。磁気ヒステリシスの再現は、平均場近似を行い、結晶磁気異方性に対する熱的ゆらぎを考慮することによって検討する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (19件) (うち国際共著 10件、 査読あり 19件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (64件) (うち国際学会 21件、 招待講演 25件) 図書 (4件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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