研究課題
本課題では、光・電磁波に応答する新規相転移物質を創成し、次世代デバイスや環境・エネルギー問題に資する新機能性に関する研究を推進することを目的としている。令和元年度は、本研究課題の中で達成する計画であった光誘起イオン伝導性を示す物質の開発に成功した。シアノ基で架橋された鉄-モリブデン骨格の3次元ネットワーク格子中にセシウムイオンを含む錯体を合成し、光スイッチング効果を示す超イオン伝導性極性結晶であることを見出した。結晶構造解析より、本錯体は自発分極を有する極性結晶であり、また、ネットワーク構造中のニトロシル基の酸素原子と水分子が1次元鎖状の水素結合ネットワークを形成していることが明らかになった。相対湿度100%、45°Cにおけるイオン伝導度は非常に高く、超イオン伝導体であることが示された。また、室温における光照射実験においては、緑色の光照射によりイオン伝導度が2桁程度大きく減少し、光照射を止めると元のイオン伝導度に回復したことから、イオン伝導性の光スイッチング効果が明らかになった。この変化は可逆的であり、モリブデンイオンとニトロシル基の結合角が光異性化することに起因する。さらに、本錯体は、自発分極を有するため第二高調波発生(SHG)を示し、光応答性ならびにSHG活性を示す超イオン伝導体であることが明らかになった。また、イプシロン酸化鉄磁性体の研究においては、その高い磁気異方性のために、波数kが0であるコヒーレントマグノンによる共鳴吸収がサブテラヘルツ領域に観測されることに着目し、磁性イオンの導入による系統的な共鳴周波数の制御に加えて、異方性磁界の乱れを利用した広帯域な共鳴吸収を達成した。この他にも、プロトン伝導性を示す発光単分子磁性体や配位水の着脱により単分子磁性挙動のスイッチングが可能な発光単分子磁性体などを合成することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
光・電磁波に応答する新規相転移物質の創成を目的として、光応答部位となるニトロシル基を含む3次元ネットワークシアノ架橋鉄-モリブデン錯体を合成し、光スイッチング効果およびSHGを示す超イオン伝導性極性結晶であることを見出し、Nature Chemistry誌に報告した。本物質は、電気分極を有する誘電体でありながら超イオン伝導性を示す非常に珍しい物質であり、さらには光スイッチング効果を示す前例のない超イオン伝導体である。このような光でイオン伝導度をスイッチングできる物質は、将来、光でON/OFF可能な電池の開発に繋がることが期待されており、Nature Chemistry誌の表紙にハイライト掲載されるなど、学術分野に大きなインパクトを与える結果が得られた。また、プロトン伝導性を示す発光単分子磁性体や配位水の着脱により単分子磁性挙動のスイッチングが可能な発光単分子磁性体なども報告しており、順調に進展している。一方で、金属酸化物磁性体のコヒーレントマグノンに関する研究において合成した金属酸化物磁性体の光学特性の評価実験・解析の結果、粒度や組成を変えた磁性体の光学特性に予期しなかったばらつきが見られ、研究遂行上、この現象の原因を解明することが不可欠であるため、粒度、組成、構造、結晶配向度の異なる新たな磁性体の合成・評価及び、その光学特性の評価実験・解析を追加して実施する必要が生じた。
研究代表者により開発された優れた磁気特性を有する金属酸化物およびその金属置換体において、粒度、組成、構造、結晶配向度の異なる新たな磁性体の合成をおこない、マグノン・フォノン結合といったメカニズムによるマグノン緩和過程を調べる。k=0のコヒーレントマグノンを励起後、その緩和過程を明らかにする。粒子サイズ、金属置換による緩和時間の変化も調べる計画である。また、ナノ粒子の結晶方位を揃えた配向体を作製し、コヒーレントマグノンと結晶磁気異方性の相関を詳細に調べるとともに、テラヘルツ領域の光吸収効率や直線偏光を円偏光に変換する性能の向上を目指す計画である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (19件) (うち国際共著 12件、 査読あり 19件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (47件) (うち国際学会 15件、 招待講演 7件) 図書 (2件) 備考 (1件) 産業財産権 (17件) (うち外国 9件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Nature Chemistry
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