研究課題/領域番号 |
15H05699
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
新田 淳作 東北大学, 工学研究科, 教授 (00393778)
|
研究分担者 |
好田 誠 東北大学, 工学研究科, 准教授 (00420000)
手束 展規 東北大学, 工学研究科, 准教授 (40323076)
塩貝 純一 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (30734066)
眞田 治樹 日本電信電話株式会社 NTT物性科学基礎研究所, 量子光物性研究部, 主任研究員 (50417094)
国橋 要司 日本電信電話株式会社 NTT物性科学基礎研究所, 量子光物性研究部, 研究員 (40728193)
|
研究期間 (年度) |
2015 – 2019
|
キーワード | スピン軌道相互作用 / 永久スピンらせん状態 / スピンホール効果 / スピン注入 / スピントランジスタ |
研究実績の概要 |
スピン軌道相互作用は、電場によるスピン操作機能を可能にし、スピントランジスタや量子ゲートなどの次世代のスピンデバイスへの展開が期待されている。このためには、スピンの長距離輸送技術とスピンの緩和の抑制技術とが不可欠となる。平成27年度は、この両方の要請を満たすことを目的に、GaAs系半導体量子井戸において、光学特性より電子スピンの輸送および緩和特性を評価した。ゲート電界を制御して、2種類の有効磁場がバランスする条件下では、100μm以上の長距離をスピンが輸送可能なことを実証した。これは、有効磁場の方向が一様になることが知られている永久スピンらせん状態が形成され、スピン緩和が抑制されたことが原因である。本成果は、Nature Communicationに採択され、報道発表を行った新聞報道(2件)された。 InGaAs系量子井戸においてゲート電界により永久スピンらせん状態とその逆状態間を制御できることを実験的に示した。また、面直磁化を有す磁性体FePtから半導体中への電気的スピン注入を行いカー回転測定により評価した。面内磁場を印加することでハンル効果を観測しバイアス電圧に依存しハンルカーブが系統的に変化することを明らかにした。得られたスピン緩和時間は時間分解力一回転測定により得られたスピン緩和時間と同程度であったことから、面直方向にスピン偏極した電子スピンの電流注入に成功したと言える。以上の成果は相補型スピントランジスタに必要不可欠となる重要な成果であり、プレスリリースした。 また、室温動作可能となるスピン軌道相互作用の強いPt, Taの単結晶薄膜の作製に成功し量子干渉効果からスピン軌道相互作用の評価を行った。その結果、多結晶薄膜とは異なったスピン緩和機構を強く示唆しておりゲート制御可能性がある事が確認された。さらに、スピン軌道相互作用の効果が期待される酸化物薄膜やホイスラー型のトポロジカル絶縁体の薄膜作製を開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、起源の異なる2つのスピン軌道相互作用の精密制御により永久スピンらせん状態とその逆状態を電界制御すると共に電気的スピン注入を実証できたことから将来のスピントロニクスデバイスに必要不可欠となるスピン生成と制御が既に確立できたことになる。よって今後のスピンデバイスに向けた要素技術が構築できたことから次年度以降の研究に大きな進展をもたらす。 またGaAs量子井戸における電子スピン輸送に関してスピン長距離輸送と電界制御を両立させる大きな研究成果が得られ、論文発表を行い、報道発表も実現させた。この研究においては、予想以上の進捗が得られたと判断する。また、新しい光学測定系設備導入と実験系構築は順調に進んでおり、更なる研究の展開が期待される。 金属系のスピン軌道相互作用の強い材料であるPtやTaの単結晶薄膜の作製に成功し、多結晶薄膜とは異なったスピン緩和機構が働いている事を明らかにした。この結果は、スピントルク発生機構が異なる事を示唆しておりスピンホール効果を用いた磁化反転等の研究に新たな知見を提供する。 また、酸化物薄膜作製装置を導入し、大きなスピン軌道相互作用が期待されるトポロジカル絶縁体や酸化物薄膜の作製に着手した。薄膜試料作製・構造解析・電気測定までの一連の実験プロセスを確立し、それぞれで実験技術の向上に取り組むことができた。このため、来年度からの積層構造におけるヘテロ界面のスピン軌道相互作用の評価のための準備を整えることができた。 以上より、研究は順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
H28年度以降は、得られた有効磁場の精密制御を用いて、スピン軌道相互作用の空間制御や時間制御に必要となる基盤技術を構築していく予定である。特に空間制御や時間制御を行うためには微小空間において大きなスピン軌道相互作用の変調が不可欠となる。よって微細加工技術と組み合わせることで空間変調や時間変調に必要なデバイス技術を構築していく。同時にどのような手法でスピン流を検出するかについても具体的な手法を練ることにより、得られスピン軌道相互作用の大きさから期待できるスピン流の量を見積もる予定である。 GaAs系でのスピン光学効果に関しては、電界によって電子がドリフトするスピン物性の詳細で精密な評価が可能であることを活かし、従来とは異なるスピン特性の解明に取り組む。まず、スピン軌道相互作用の重要なパラメターの見積もるための評価を行う。スピン軌道相互作用パラメターは、実験と計算との比較から見積もられていたが、報告値が大きくばらついていた。平成27年度に実現した評価技術を用いて、信頼性の高い見積もりを行う。また、実験技術を発展させて、従来は無視されていた、スピン軌道相互作用の非線形効果を考慮した、新しい永久スピンらせん状態の実現に向けての検討を進める。GaAsBi系においては、平成27年度に導入した光学実験系を用いた評価に着手する。 単結晶薄膜Pt, Taのスピン軌道相互作用のゲート電界制御の可能性を探究するとともに、磁性体薄膜とのヘテロ構造を作製し、巨大なスピン軌道相互作用による磁化反転機構の解明、磁区構造を決定する要因を解明する。このため、スピントルク発生に有効な磁性体/重金属のヘテロ構造の探索とスピン軌道相互作用によるスピントルクの評価方法を確立する。 金属のスピン軌道相互作用を室温で評価する手法として、トンネルスピンスペクトロスコピーを確立する。また、異常ホール効果等からの試料評価も行うことで、スピン軌道超格子の材料開発進行を加速させる。トポロジカル絶縁体については、本年度探索したバルク材料の薄膜化を目指す。主に組成と熱処理条件による結晶構造の変化に着目して、実験を進める。最後に、素子サイズと膜構成を検討することで、電界効果による磁化反転の制御を試みる。 酸化物薄膜試料の高品位化に取り組む。具体的には基板材料選択・成長中の酸化雰囲気・基板温度などの薄膜成長条件の最適化を行う。高品質の単相薄膜の安定供給を基に、特にスピン軌道相互作用が強い物質を組み合わせたヘテロ構造や超格子構造などの薄膜積層構造の作製に展開し、界面における新規スピン物性の探索を狙う。物性評価には低温磁気伝導測定にて行い、弱磁場磁気抵抗効果などから薄膜試料のスピン軌道相互作用の大きさを評価する。
|