研究実績の概要 |
GaAs/AlGaAs量子井戸構造ではスピン歳差運動が生じる結晶方向に依存しスピン緩和に異方性が生じることが知られていた。これはスピン軌道相互作用に由来するため物質固有値であると考えられてきたが、スピンの拡散運動を詳細に調べることで最大6倍も変調できることを明らかにした。 InGaAs半導体量子構造を用いた細線構造において、磁気輸送測定における弱局在現象の面内磁場角度依存性とホール素子における弱反局在のゲート制御から、内在する全てのスピン軌道相互作用係数(ラシュバスピン軌道相互作用とドレッセルハウススピン軌道相互作用の線形項と高次項)を定量的に評価可能な手法を確立した。 本年度は電場による電子加速とフォノン散乱によるエネルギー緩和を考慮した数値計算を行い、電場印加による電子温度の上昇とスピンダイナミクスへの影響を明らかにした。本計算によって電場による電子の微視的な運動がマクロなスピン伝搬にどのように影響しているかを系統的に説明することが可能となり、電子スピンの空間分布の電場依存性という応用上重要な知見が得られた。 強磁性半導体である(Ga, Mn)Asをスピン注入源、非磁性半導体であるGaAsをチャネルとした非局所スピン注入素子を作製し、(Ga, Mn)As/GaAsの接合界面でのショット雑音を広範囲の印加電圧で測定することにより、トンネル伝導、ギャップ内準位を介した伝導、及び拡散伝導の各伝導領域におけるスピン注入現象の物理的描像を明らかにした。 本年度は、MgO(110)基板に成長をしたエピタキシャルPtにおいて[001]および[1-10]面内結晶方向に依存し、スピン緩和長が3倍程度異なるとともにスピン流の生成効率及びその磁化反転電流密度が異なることを明らかにした。スピンホール磁気抵抗の温度依存性は、これまで金属では考慮されてこなかった界面のスピン分離に起因したスピン歳差運動を伴うディヤコノフーペレルスピン緩和機構が働いていることを示唆する結果を得た。 またスピン軌道相互作用が弱いレニウムを酸化させる事で、レニウムに比べ37倍も大きなスピン軌道トルクの生成にも成功した。スピン軌道トルクは磁気デバイスの根幹を成す磁化反転現象を効率的に行う事が出来るため、スピントロニクス素子への応用が期待できる。更に酸化状態を変える事でスピン軌道トルク生成効率を制御出来る事を実証した。これは酸化によってトルク生成に重要な電子状態が変調されている事を示唆する重要な成果である。 磁気的に結合した重金属薄膜/強磁性薄膜/重金属薄膜/強磁性薄膜人工格子を作製し,その磁化過程とSOT磁化反転特性を評価した. 接触するMgO絶縁層と各層の膜厚を最適化することで垂直磁化膜を得ることができた. また, 磁化反転臨界電流は単層重金属層の場合と比べて低減できることが分かった。
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