研究課題/領域番号 |
15H05700
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
荒川 泰彦 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (30134638)
|
研究分担者 |
岩本 敏 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (40359667)
清水 明 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10242033)
太田 泰友 東京大学, ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構, 特任准教授 (90624528)
|
研究期間 (年度) |
2015 – 2019
|
キーワード | 量子ドット / フォトニック結晶 / 共振器量子電気力学 / 半導体レーザ |
研究実績の概要 |
昨年度に大きく進展した量子ドット・ナノ共振器形成技術をより一層開拓・高度化するとともに、その基盤技術を軸とした種々の量子ドットCQEDの実験・理論研究を展開した。その結果、下記3つの全ての研究領域で多くの成果をあげることに成功した。 1. 量子ドット・ナノ共振器形成基盤技術開発 : 高品質低密度量子ドットの成長技術を発展させ、結晶成長の観点から荷電状態を制御することを達成するとともに、高品質フォトニック結晶への導入にも成功した。また、加工条件を最適化することで、2次元フォトニック結晶ナノ共振器におけるさらなる高Q値化を実現した。また、3次元フォトニック結晶においては、ナノレーザと3次元光導波路の同時集積技術を世界に先駆けて構築することに成功した。加えて、GaN系界面ゆらぎ量子ドットやナノワイヤ量子ドットの高品質成長技術においても、顕著な進展が見られた。 2. 固体量子電気力学探究 : 複数量子ドット-複数共振器結合系において、決定論的に量子もつれ状態(NOON状態)を生成する手法を理論提案した。また、励起子分子共鳴を用いることで、高純度な単一光子発生が可能であることを理論的に指摘した。また、縮退2モードフォトニック結晶ナノ共振器を利用することで、量子ドットから光の角運動量状態を直接生成できることを見出した。さらには、量子ドット系のゆらぎと応答に関して理論検討を進め、揺動散逸定理における量子効果による部分的破綻を厳密に示すことに成功した。一方、実験的には、上述した高品質な量子ドット-フォトニック結晶ナノ共振器系を用いて、その真空ラビ振動を時間領域で直接観測することに成功した。さらには、スピン偏極した量子ドットにおける自然放出の方向を制御する光ナノ構造を検討し、基礎的な実験実証に成功した。 3. 極限量子ドット光源開発 : 反射鏡構造の改善によるナノワイヤ量子ドットレーザの特性向上を進めたほか、無閾値レーザ発振における理論解析を進めた。また、CQED効果により発光寿命を短縮した量子ドット-ナノ共振器結合系を、光導波路と高効率に結合させることに成功し、その単一光子発生を確認した。また、プラズモニック共振器における広帯域な発光寿命短縮効果の観測にも成功している。一方、窒化物においては、界面ゆらぎ量子ドットからの単一光子発生および環境電荷との相互作用を実験的に明らかにするとともに、ナノワイヤ量子ドットからの直線偏光単一光子発生の観測に成功している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の成果を着実に発展させることで、極めて高品質な量子ドット-ナノ共振器結合系の作製に成功するとともに、そのプラットフォームを活かした種々の実験を進めることができた。また、理論面からも新規な量子光生成手法の提案に至るなど、多くの研究成果をあげることができた。 一方、研究年度後半に、本研究に用いる量子ドット構造を形成する結晶成長装置に不測の故障が生じたため、当装置の修理・調整が必要となった。これにより、量子ドット-ナノ共振器系のさらなる高度化に向けた実験が、9ヶ月程度遅延する見込みである。しかし、作製済みの試料を用いた実験は順調に進んでおり、結晶成長済みの量子ドット基板を用いることでより発展的な実験に使用する試料の準備も着実に進んでいる。 以上の状況を勘案し、「②おおむね順調に進展している」の評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
研究はおおむね順調に進展しており、今後も計画に従って着実に研究を推進する。一方、これまでに確立した高品質量子ドット-ナノ共振器結合系の作製技術を基盤として、より発展的・挑戦的な実験研究の加速を目指す。その中で、下記の取り組みを中心に据えた研究推進方策をとることとする。 1. 量子ドット・ナノ共振器形成基盤技術開発 : 低密度量子ドット結晶成長技術のさらなる高度化に取り組む。特に、よりコヒーレンスの高い量子ドットの実現に向けて、その発光線幅のさらなる低減を図る。量子ドット近傍の環境電荷ゆらぎを抑えるために、急峻なヘテロ界面を保つ結晶成長技術を探求する。また、フォトニック結晶ナノ共振器作製技術および設計技術をさらに高め、よりモード体積が小さくQ値の高い共振器の実現を図る。特にドライ加工プロセスの緻密な制御や、加工表面状態の改質などにも積極的に取り組む。また、ナノ共振器中の量子ドット位置読み取り技術等を応用し、量子ドットの個数や配置などの制御を目指した技術開発も進める。これらの要素技術を高いレベルで組み合わせることで、量子ドットCQEDにおける性能指数の飛躍的向上に引き続き挑戦するとともに、有限少数個量子ドットCQED系を自在に作製する基盤技術の確立に取り組む。 2. 固体量子電気力学探究 : 第一に単一量子ドットCQEDにおける実験的探求を加速する。特に、高品質量子ドット-ナノ共振器結合系において発現する強い光非線形性と付随する多光子相関状態に着目した研究を理論的な視点も含めて推進するとともに、単一量子ドットCQED系に対する超高速量子状態制御技術の確立も目指す。これらの取り組みを通じ、単一量子ドットCQEDの未踏領域に挑戦する。一方、多量結合系におけるCQEDを理論・実験両面から引き続き探求し、その学理構築に向けた研究を展開する。すでに理論的に検討を進めている2共振器モード-単一量子ドット系やそのさらなる発展系に対して、試料の作製および光学測定実験を進める。また、多量結合系をプローブ・制御する光学的手法を構築し、その量子光物性を光子統計性や複合ダイナミクスといった観点から議論する。これらの実験的理論的研究をさらに加速するために、博士研究員のさらなる登用についても検討する。 3. 極限量子ドット光源開発 : 有限少数個量子ドットレーザに関してより発展的な研究を進める。特に、量子ドット埋め込みヘテロ構造などの活用も視野にいれつつ、電流注入型デバイスの実現に向けた取り組みを進める。一方で、単一/有限小数個エミッタレーザの学理構築といった学問的課題にも取り組む。また、量子ドットCQEDを活用した極限量子光源実現に向けた研究を加速する。特に、導波路系やプラズモニクスなどの新規要素の活用も積極的に検討するとともに、前項・固体量子電気力学探究において見出したCQED現象を積極的に活用した光源開発も検討する。さらには、多重量子結合系CQEDの物理を深め創発的量子ドット光源の創成を目指す。また、スピン自由度の活用や、多重量子系に特徴的な超放射等の協力現象を利用した新ナノ光源に関する議論を進める。
|