研究課題
これまでに構築した量子ドット・ナノ共振器形成技術を軸として、同系を用いた共振器量子電気力学実験を精力的に推進するとともに、形成技術そのものに関してもより一層の高度化を図った。また、さらなる量子ドット・共振器結合系の高品質化を目指し、電磁界計算を用いていくつかのナノ共振器構造に関する解析を進め、実験的に評価した。一方、理論面からも量子ドット共振器量子電気力学系を探求し、新たな知見を得た。さらには、これらの基盤技術をベースとして量子光源技術・ナノレーザ技術への展開も推進した。以上の取り組みの結果として、以下に記す多くの成果をあげることができた。1. 量子ドット・ナノ共振器形成基盤技術開発 : 分子線工ピタキシーによる結晶成長条件をより緻密に制御することで、高品質低密度量子ドットの成長技術をさらに発展させることに成功した。また、量子ドットの空間分布制御技術として、埋め込みヘテロ成長にも取り組んだ。付随する半導体ナノ加工プロセス技術も同時に開拓することで、埋め込んだ量子ドットと高品質フォトニック結晶ナノ共振器との融合を実現した。一方、量子ドットの空間的なランダム分布を克服し高品質多重量子結合系を実現する手法として微小フォトニック構造の転写技術の開発も進め、量子ドット-ナノ共振器系と細線光導波路との光結合に成功した。また、半導体ナノ加工条件の最適化に粘り強く取り組むことで、量子ドットを含む2次元および3次元フォトニック結晶ナノ共振器において一層の高Q値化を達成した。同時に、高Q値と極小モード体積同時にを実現可能ないくつかの共振器構造に関して電磁界計算・実験により検討を進めた。加えて、InGaN系およびGaN系量子ドットやナノワイヤ量子ドットに関して、結晶成長技術の高度化を進めた。2. 固体量子電気力学探究 : 縮退2モードフォトニック結晶ナノ共振器に関する理論検討を進め、光軌道角運動量状態を用いた励起により共振器内部に円偏光特異点が実現可能であることを見出した。これにより、量子ドットを用いた光角運動量-電子スピン変換が可能であることを理論的に明らかにした。また、幾何学位相を考慮したナノ共振器設計に取り組み、単一モード性を担保しつつ高Q値・微小モード体積を実現できることを見出した。幾何学位相の観点からは、励起子分子遷移を含む量子ドット・ナノ共振器系の励振手法に関しても検討を進めた。また、スピンを考慮した量子ドット系において急峻な磁場印加に対する非線形応答の解析も進めた。実験的には、量子ドット・ナノ共振器強結合系における真空ラビ振動を詳細に解析し、位相緩和やキャリア注入時間といった重要パラメータを推定することに成功し、真空ラビ振動が量子ドット周囲環境に対する高感度プローブとして利用できることを示した。さらには、スピン注入下で発振方向を制御可能な光微小共振器を設計し、基礎的な実験実証を行った。また、カイラル3次元フォトニック結晶における量子ドットの自然放出を調べることで、円偏極した真空場の存在を明らかにした。3. 極限量子ドット光源開発 : 量子ドット-ナノ共振器系-細線光導波路結合系において、Purcell効果の発現した高速単一光子発生およびその光導波の観測に成功した。また、プラズモニック微小共振器において単一プラズモン生成を実現し、その起源が横高次モードを用いたウィスパリングギャラリーモードであることを明らかにした。また、幾何学位相を制御したナノ共振器と量子ドットを組わせた系において、疑似連続波レーザ発振を観測した。一方、GaN界面揺らぎ量子ドットからの高純度単一光子発生に成功するとともに、その発光の温度依存性を詳細に調べた。また、窒化物量子ドット単一光子源におけるスペクトル拡散の影響を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
これまでに得られた成果を発展させ、高品質な量子ドット-ナノ共振器系を利用した共振器量子電気力学実験が進展するとともに、量子ドットの空間分布制御や高品質多重量子結合系を実現する作製手法の開拓も行い、それぞれ重要な成果に繋がっている。理論面でも、新たな視点を取り入れつつ、多モード系の特徴を生かした光角運動量-電子スピン変換の提案に至るなど、順調に発展していると言える。以上の状況を勘案し、「②おおむね順調に進展している」の評価とした。
研究はおおむね順調に進展してきており、引き続き計画に従って着実に研究を推進する。一方、すでに5年ある研究期間の中盤を過ぎたことを考慮し、これまでに確立した量子ドット-ナノ共振器結合系に対する高品質作製技術の特色を生かすことが可能な研究テーマに対して、より重点的に研究リソースを投入することを検討している。そこで、下記の取り組みを中心に据えた研究推進方策をとることとする。1. 量子ドット・ナノ共振器形成基盤技術開発 : 低密度量子ドット結晶成長技術をさらに追及する。これまでの研究で、量子ドット発光ピーク密度・発光線幅・荷電状態などの主要パラメータが、量子ドット形成後のポストアニール・部分キャップ形成・インジウムフラッシュ過程に大きく依存することが分かっている。これらの条件をさらに制御することで、励起子分子束縛エネルギーや励起子微細構造分裂エネルギーなど、共振器量子電気力学実験を遂行する上での重要物性値の制御にも積極的に取り組む。また、新たに電磁界設計を進めているフォトニック結晶ナノ共振器に対して、ナノ加工条件を徹底的に最適化し、高品質量子ドットと組みわせることで量子ドット共振器量子電気力学における性能指数の飛躍的向上に引き続き挑戦する。また、ナノ共振器中の量子ドット位置読み取り技術、ナノ共振器の転写技術や埋め込みヘテロ成長技術を駆使することで、多重量子結合系を自在に作製する基盤技術の開発に継続して取り組む。2. 固体量子電気力学探究 : 単一量子ドットと高性能フォトニック結晶ナノ共振器を組わせた系を用いて、少数光子非線形光学効果や多光子相関状態生成といった現象の観測に挑戦する。また、量子ドット内の励起子分子などを活用することで、多光子強結合状態や真空誘導断熱ラマン遷移などの単一量子ドット共振器量子電気力学の未踏領域にも挑戦する。理論面からも、幾何学位相に着目した量子操作など、新規物理現象の探求を引き続き進める。多重量子結合系に関しても、2共振器モードー単一量子ドット系やそのさらなる発展系を対象に理論検討を加速する。実験的にも、これまでに発展させた作製技術を駆使して試料を準備し、超高速ダイナミクスや多光子量子相関といった現象に着目しつつ光学実験を進める。3. 極限量子ドット光源開発 : これまでに開発した高性能フォトニック結晶ナノ共振器を利用することで有限少数個量子ドットレーザの研究を加速する。また、量子ドット共振器量子電気力学効果を活用した超高速・コヒーレント単一光子発生器といった極限量子光源に関する研究を進める。その際、導波路結合やプラズモニクスを活用し、応用の観点も意識した開発を行う。さらには、窒化物系半導体の利用による室温動作も検討する。多重量子結合系における共振器量子電気力学効果を活用した光渦生成等の創発的量子ドット光源に関して、引き続き理論・実験両面から検討を進める。量子ドット中のスピン自由度の活用なども検討し、スピンレーザーなどの新規量子ドット光源の実現にも取り組む。
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