研究課題/領域番号 |
15H05700
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
荒川 泰彦 東京大学, ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構, 特任教授
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研究期間 (年度) |
2015 – 2019
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キーワード | 量子ドット / フォトニック結晶 / 共振器量子電気力学 / 半導体レーザ |
研究実績の概要 |
これまでに構築した量子ドット・ナノ共振器技術を基盤とし、より洗練・発展させることで、様々な量子ドットCQED実験を推進した。同時に、量子ドットCQEDの制御やナノ共振器形成においてトポロジーの観点を導入し、実験・理論の両面から新たな展開を図った。その結果、推進する3つの研究領域において多くの成果をあげることができた。 1. 量子ドット・ナノ共振器形成基盤技術開発 : 高Q値フォトニック結晶ナノ共振器のポストプロセスを見直すことで、より一層の高Q値化を達成するとともに、同共振器を用いた量子ドットとの強結合状態を実現した。また、高Q値を達成しつつ量子ドットとのより強い結合が可能なナノ共振器を検討し、実験的に評価を進めた。一方、トポロジカルな概念に基づいたナノ共振器の設計を行った。電磁界計算によりその振る舞いを解析するとともに、実験的に量子ドットとの結合を確認した。また、ナノビーム共振器を転写集積し光導波路と結合させた系においてもCQED実験を進め、光回路上での量子ドット強結合状態を実現することに成功した。並行して量子ドット埋め込みヘテロ構造の作製も進め、ナノ共振器との結合を実験的に確かめた。 2. 固体量子電気力学探究 : 縮退2モードフォトニック結晶ナノ共振器を用いて単一光子の軌道角運動量を量子ドット励起子スピンへ効率的に変換できることを数値計算により明らかにした。また量子ドットスピンにおける外部磁場下での非線形応答を正確に求める手法を開発し、その有用性を示した。また、量子ドットの多重内部状態を利用しその間の遷移における幾何学位相を制御することで、真空ラビ振動を超高速に制御できることを理論的に明らかにした。またディラック点を有する2次元フォトニック結晶結晶場へ微小共振器を設置し、同系における光散乱の大幅な増大を議論した。さらにはトポロジカルエッジ状態-量子ドット結合系の解析に取り組み、その結合を光学測定により調べた。 3. 極限量子ドット光源開発 : 量子ドットを内包したトポロジカルナノ共振器からのレーザ発振観測に成功した。さらには、量子ドット-ナノ共振器-導波路結合系においてもレーザ発振を実現した。また、平坦化銀上に形成したプラズモニック共振器と量子ドットとの結合系からの単一光子生成を実現した。窒化物量子ドットにおいて発光励起測定を行うとともに、環境電荷との相互作用を時間層間測定により調べ、その時間スケールを明らかにした。また、同系からの高品質な単一光子発生を観測ずるに至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を通じて構築した高品質な量子ドット-ナノ共振器系を活用したCQED実験が着実に進展するとともに、光源開発への応用も順調に進んでいる。プロセス開発などで時間を要する場面があったものの、粘り強く取り組むことで重要な知見を得るに至っている。また、理論面からも量子ドットスピンや幾何学位相に着目し、興味深い成果をあげることができた。 また、本年度途中においてトポロジカルな概念に基づくフォトニック結晶ナノ共振器が本研究で目指す系のプラットフォームとして有望である可能性を発見した。同系を活用したナノレーザ技術の開発も行い、その優れた特性の一旦を明らかにすることができた。これは、当初の計画以上の進展といえる。 以上の状況およびこれまでの進展を勘案し、「①② おおむね順調に進展している ただし、一部については当初の計画以上に進展している。」の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、研究最終年度であることを踏まえ、これまでの研究成果をより一層発展させつつ、成果創出を軸に据えた研究を推進する。さらには、トポロジカルフォトニック結晶ナノ共振器など、今後の研究発展の土台となりえる新技術についても積極的に検討する。具体的な推進方策は、下記の通りである。 1. 量子ドット・ナノ共振器形成基盤技術開発 : これまでに得た知見を活用しフォトニック結晶ナノ共振器のさらなる高Q値化と量子ドットCQEDへの応用を進める。ナノ共振器設計においてはトポロジカル物理を援用することで、新たな展開も図る。設計の変更によりナノ加工プロセスに幾分の条件調整が必要となるが、その影響は軽微であり高品質なものを早期に実現できると考えている。また、量子ドット-ナノ共振器-導波路結合系のより一層の洗練を図る。複数の量子ドットーナノ共振器系を同一チップに取り込み、各々の系の共鳴波長を独立して制御し、導波路を介した光子-光子相互作用の観測に取り組む。加えて、同様の系を発展させることで電流注入による単一光子源の作製に取り組む。さらには、軌道角運動量を有する光の放射が可能な共振器の作製を進め、その実験観測を試みる。 2. 固体量子電気力学探究 : 多重量子結合系CQEDの理論研究を加速する。結合共振器アレイにおいて結合強度変調を導入し、同系で出現するトポロジカルエッジモードと量子ドットとの相互作用を調べる。その際、量子ドット系の複数準位を扱い、幾何学的な位相を考慮した高速量子操作の導入も試みるとともに、多重量子CQED現象の発現について検討する。さらには、ロバストな単一モードレーザ発振などへの応用可能性について議論を進める。また、空間反転対称性が破れた系に出現するトポロジカルエッジモードと量子ドットとの相互作用についても考察を進める。一方、量子ドット-ナノ共振器-導波路結合系の光学応答に関して、量子マスター方程式による解析を進め、単一光子フィルタなどの量子機能について検討を進めるとともに、その実証を目指した光学実験を展開する。 3. 極限量子ドット光源開発 : 現在までに構築した量子ドット・ナノ共振器技術に加え新規ナノ共振器技術を活用することで、有限少数個量子ドットレーザをはじめとする極限量子ドット光源の開発を加速する。量子ドット-ナノ共振器-導波路結合系において電流注入構造を構築し、電流駆動型単一光子源の実現を図る。また、トポロジカルエッジ状態と量子ドットとの結合を活用したレーザ光源開発を進める。さらには、スピン偏極量子ドット発光を用いた光軌道角運動量の発生技術を発展させ、種々のベクトルビームが生成可能な新規微小光源の実験的な原理実証を目指す。加えて、スピンにより発振方向を制御可能な集積スピンレーザの実験実証に取り組む。
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