研究課題
継続して高品質な量子ドット―ナノ共振器結合系の形成技術の追求を続け、多様な観点から発展を図ることで、多くの実験成果を得た。また、量子ドット―共振器結合系に対して、トポロジー・超対称性・スキルミオンなどの概念を取り込み、その創発的な量子電気力学現象や光機能について理論的な知見を深め、量子ドット光源への応用を進めた。以下に、推進する3つの研究領域における成果をまとめる。1. 量子ドット・ナノ共振器形成基盤技術開発 :ナノ共振器の高Q値化メカニズムを光物性の観点から検討した。表面欠陥や自由キャリアによる光吸収の影響を明らかにし、これまでに構築した表面改質ポストプロセスの有用性を明らかにした。また、昨年度から検討を開始した新型高Q値ナノ共振器を用いて量子ドットとの強結合状態を実現した。さらには、光導波路に同時集積した二つの量子ドット―ナノ共振器において、双方の量子ドット発光波長をチューニングし一致させることに成功した。一方、メタモルフィッ構造や3重層構造を活用した通信波長帯高品質InAs/GaAs量子ドットの結晶成長に成功した。また、分子線エピタキシー時における電子線回折像による結晶成長モニタリングに対して、畳み込みニューラルネットワークを用いることでその機械化を図った。また、トポロジカルな概念を用いた低群速度光導波路の設計を見出し、その基礎特性を主に数値計算を用いて明らかにした。2. 固体量子電気力学探究 :共振器から偏光状態や角運動量状態を制御して光を回折する手法を見出した。それによりスピン・軌道角運動量状態の制御された光重ね合わせ状態により実現される光スキルミオン状態が遠方界で実現できることを数値計算により示した。さらには、その応用として高次フルポアンカレ状態を生成できることも見出した。また、量子ドット系における一般化猫状態を用いた磁気検出技術について、理論検討を進めた。一方、高次トポロジカルコーナー状態を活用した光ナノ共振器の設計を行い、量子ドットとの結合を実験的に観測することに成功した。さらには、トポロジカルエッジ状態による光導波路と量子ドットとの光結合を観測した。これらの研究成果とその応用研究に関して国際共著の解説論文にまとめ、国際論文誌において発表した。3. 極限量子ドット光源開発 :量子ドット―共振器多重結合系をトポロジーの観点から適切に配置することで、単一モード動作レーザに応用できることを見出した。数値計算を進め、実現に必要な素子パラメータを明らかにした。また、同多重結合系を2次元に配置した場合には、超対称性に基づいたアレイ配置により、2次元単一モード動作するレーザへ応用が可能であることを明らかにした。また、反射鏡を埋め込んだ導波路とナノ共振器の相互作用を検討し、光出射効率を高めた導波路型単一光子源の実現に成功した。一方、適切な光学構造と組みわせることで高効率な窒化物単一光子源の実現にも成功した。
2: おおむね順調に進展している
高品質量子ドットとナノ共振器との結合系を活用した実験が進展し、高効率な単一光子源の実証等に結実した。また、理論面ではトポロジーなどの概念を活用したナノ共振器や新規光源構造の提案を行い、そのいくつかを実験的にも検証するに至っており、想定以上の進展を得ている。一方、今年度前半に結晶成長装置に不測のトラブルが発生したため、量子ドットウェハの供給に遅延が発生した。ただ、過去に成長した基板等を活用することで実験を継続し、多数の成果を得ることができている。しかしながら、より追求が可能ないくつかの実験研究の重要性を考慮し、予算の繰り越しと研究の継続を判断するに至っている。以上を勘案して、進捗状況は「② おおむね順調に進展している」と評価した。
次年度は、研究課題終了を念頭に成果創出にこだわった研究を展開する。これまでの研究成果を土台として、その深化に継続して取り組みつつも、より発展的な実験研究を展開する。また、昨年度までに見出した多様な概念と量子ドット―共振器系の融合をさらに進展させることで、創発的な電磁力学現象や光機能のさらなる発見および実験実証を目指す。具体的な推進方策は、下記の通りである。1. 量子ドット・ナノ共振器形成基盤技術開発 :まず、昨年度発生した結晶装置トラブルの迅速な解決を目指す。昨年度中に装置の修理を概ね終えているため、高品質量子ドット成長のための装置の調整を進め、同試料の作製を再開する。また、既存・新規の量子ドットウェハを活用して量子ドット―ナノ共振器を作製し、複数の量子ドット―共振器結合系を同一光チップに取り込むことで導波路を介した光子-光子相互作用等の観測に取り組む。加えて、電流注入・電界制御量子ドットとナノ共振器を組みわせた系の作製も行う。その際、トポロジーの概念を応用したナノ共振器の活用も積極的に検討する。また、スピン・軌道角運動量を制御可能な共振器についても作製プロセス開発を進める。2. 固体量子電気力学探究 :スピン・軌道角運動・量子ドット内部状態など、様々な物理的自由度を横断的に活用した量子ドット―共振器系における量子電磁力学現象や創発的光機能の探求を進める。光スキルミオンなどの物理現象の観測を目指すだけでなく、その光物性などへの応用も含め広く検討する。また、トポロジカルエッジ状態と量子ドットとの結合を引き続き検討し、その物理を明らかにすることを目指す。昨年度までに見出したトポロジカル共振器や低群速度導波路がその候補となる。さらには、1次元や2次元の結合共振器アレイを舞台にした光物質相互作用についても検討し、その光機能と応用可能性についてより踏み込んだ議論を進める。3. 極限量子ドット光源開発 :量子ドット―共振器多重結合系を活用した新規光源技術を引き続き検討する。構造の不完全性や実験環境のゆらぎなど実験実証を念頭においたより具体的な数値計算を進める。特に、同系のレーザ応用については既存デバイスとの比較も含めてその性能・応用可能性を丁寧に検証する。また、量子ドット―ナノ共振器―導波路結合系の検討をより進め、高効率な集積量子光源の実現を図る。※新型コロナウィルスの感染拡大に伴い研究環境が時々刻々と変化しており、状況によっては計画通りに研究を遂行することが難しくなることが想定される。その際は、適切なルールの下で研究環境維持に最大限の対処を施しつつも、計画を適宜見直し、可能な範囲で研究を推進することを目指す。
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すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 2件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (70件) (うち国際学会 36件、 招待講演 15件) 備考 (1件)
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