研究課題/領域番号 |
15H05701
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 淳夫 東京大学, 大学院工学系研究科, 教授 (30359690)
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研究分担者 |
大久保 將史 東京大学, 大学院工学系研究科, 准教授 (20453673)
山田 裕貴 東京大学, 大学院工学系研究科, 助教 (30598488)
館山 佳尚 国立研究法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点 界面計算科学, グループリーダー (70354149)
原田 慈久 東京大学, 物性研究所, 准教授 (70333317)
朝倉 大輔 国立研究法人産業技術総合研究所, エネルギー技術研究部門, 研究員 (80435619)
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研究期間 (年度) |
2015 – 2019
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キーワード | リチウムイオン電池 / 電解液 / 水溶液 / 高電圧 / 常温溶解塩 / 電解質 / ドライルーム |
研究実績の概要 |
昨年度の最大の成果は、Hydrate melt型水溶液が極めて広い電位窓を有し、現用のリチウムイオン電池と同等以上の性能を実現できる見通しを得たことである。実験及び理論計算の双方から、全ての水分子がリチウムイオンに対して配位状態となっている特殊構造が機能の起源であることを確認した。現状のリチウムイオン電池の高性能化を大幅な低コスト化と同時に実現するばかりでなく、生産工程から投資・維持費とも極めて高額なドライルームが撤廃される可能性を提示する画期的結果である。現在、Nature Energy誌からの改訂の指示に対応しており、近日中に最終投稿の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回の常温溶融水和物、及びその極めて安定で高速な電解質機能の同時発見により、 (1) 新たなカテゴリーの電解質物質領域の創製 (2) 市販のリチウムイオン電池のエネルギー密度を水系電解液で大きく凌駕 (3) 市販のリチウムイオン電池を遙かに上回る高出力(大電流)特性 (4) 電池生産工程における禁水環境(ドライルーム)の撤廃 (5) 有機溶媒撤廃による絶対的安全性の確保 (6) リチウムイオン電池の価格破壊 (7) 新たな前提に基づく新型電池開発 といったこれまで予想すらできなかった変革の数々が、実験室レベルでの初期検討において既に実証されている。超汎用物質である「水」を基本とするプロセス設計とデバイス設計の双方が可能となることで、将来の蓄電池技術、ひいてはIoT時代の電力システムに計り知れないインパグトを与える可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
hydrate melt-based batteriesについて、現時点では高電圧作動時の長期充放電サイクル安定性が不十分であり、常温溶融水和物の高い電気化学安定性の起源解明と、更なる高安定化のための常温溶融水和物の設計及び電池セルに対する技術的施策が課題となる。電気化学測定及び電極表面の解析(X線光電子分光法、フーリエ変換赤外分光法)により、電気化学安定化に対する熱力学的要因及び速度論的要因(passivation)の寄与を明確化するとともに、第一原理分子動力学計算により、常温溶融水和物のフロンティア電子軌道準位の評価、酸化・還元時の分解反応経路の特定を行うことで、電気化学安定化の起源を解明する。得られた知見をもとに、更なる高安定常温溶融水和物の設計を行う。同時に、電解液のpH調整、電極・セル部材の改良・被覆等の技術的施策による充放電サイクル安定化を目指す。加えて、常温溶融水和物中におけるイオン輸送機構の解明も必要である。実験的には、パルス磁場勾配核磁気共鳴法によるカチオン、アニオン、水の自己拡散係数及び活性化エネルギーの評価を行い、superionicityを発現しているイオン種の特定を行う。並行して、第一原理分子動力学計算により、常温溶融水和物を含む様々な濃度の溶液について、各イオン種の拡散挙動・速度を調べ、常温溶融水和物に特有の拡散機構を特定する。以上、実験・理論の協奏的アプローチにより、常温溶融水和物の基礎物性に関する知見を体系化するとともに、新たな蓄電デバイス概念の確立を目指す。
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