研究課題/領域番号 |
15H05703
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高柳 広 東京大学, 大学院医学系研究科, 教授 (20334229)
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研究分担者 |
新田 剛 東京大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (30373343)
澤 新一郎 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 准教授 (80611756)
岡本 一男 東京大学, 大学院医学系研究科, 特任准教授 (00436643)
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研究期間 (年度) |
2015 – 2019
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キーワード | 骨代謝 / 免疫 / 造血 / 関節リウマチ / 自己免疫疾患 / 自己寛容 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
本課題では、骨疾患・免疫疾患における骨-免疫系作用の生理的意義を包括的に解明し、疾患克服に向けた研究基盤の構築を目指す。 ①自己免疫疾患の病態解明と治療法開発基盤の構築 : RANKLは破骨細胞分化の必須サイトカインであり、その中和抗体は骨粗鬆症やがん骨転移、関節リウマチに対する治療薬として注目されている。しかし一方でRANKL非依存的な破骨細胞分化経路も議論されており、最近lysyl oxidaseがRANKL非依存的破骨細胞分化を誘導し、がん骨転移を促すことが報告された。我々は既報の解析法の問題点を指摘し、RANKL遺伝子欠損マウスを用いた解析により、lysyl oxidaseは間葉系細胞などのRANKL発現誘導を介して破骨細胞分化を促すことを明らかにした。本成果は破骨細胞分化機序の理解を深めただけでなく、RANKL非依存的分化経路研究の再考の提起に繋がった。 ②新たな骨-免疫系インタラクションの解明 : RANKLは骨代謝に限らず、免疫系に関わる様々な細胞の制御因子としても機能する。我々は、腸管パイエル板の新規間葉系細胞がRANKLを発現し、腸内細菌への免疫応答を誘導することで腸内細菌叢の制御に関わることを明らかにした。この間葉系細胞に発現されるRANKLは、腸管上皮のM細胞への分化とケモカインCCL20発現に必須であり、IgAの産生を介して腸内細菌叢の多様性維持に寄与することが明らかになった。本成果により、新規間葉系細胞であるM細胞誘導細胞(Mcell-inducer (MCi) cells)を標的とした炎症性腸疾患の治療やワクチン開発に繋がる可能性が示された。 ③骨髄微小環境における骨による免疫制御 : 各種骨髄構成細胞を特異的に欠損する遺伝子改変マウスを作成し、骨髄造血における骨構成細胞の役割を検討した。その結果、骨芽細胞特異的欠損マウスでは、末梢のリンパ球および骨髄のリンパ球共通前駆細胞の数が減少することが判明し、骨芽細胞はIL-7を産生することで、骨髄中の共通リンパ球前駆細胞の維持に寄与することを見出した。さらに敗血症のマウスモデルを用いて、急性炎症時におこるリンパ球減少症は、こうした骨芽細胞によるリンパ球前駆細胞制御の破綻に起因することを明らかにした。本成果により、従来の敗血症治療法と併せて、骨芽細胞を標的として発症後期の免疫力低下のコントロールを目指す新しい治療法開発の可能性を提示することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① RA等の自己免疫疾患の病態解明と治療法開発基盤の構築 lysyl oxidaseの破骨細胞分化に対する効果を精査した結果、lysyl oxidaseは間葉系細胞などのRANKL発現誘導を介して破骨細胞分化を間接的に促進させることが判明した。近年のRANKL非依存的破骨細胞分化研究に対して再考を促した成果として、Nature ReviewやJBMRなど当該分野に影響力の高い国際誌に取り上げられ評価を受けた。また自己免疫性関節炎の増悪要因である新規T細胞サブセットの特異的因子の解析も進めており、すでに複数の候補因子を絞り込み、遺伝子改変マウスの樹立に成功している。さらにFezf2による末梢組織自己抗原の発現制御機構の解析も進行しており、Fezf2と相互作用するクロマチン制御因子を見出している。Fezf2とクロマチン制御因子が協調的に末梢組織自己抗原を制御している可能性について検討を進めている。 ② 新たな骨-免疫インタラクションの解明 破骨細胞活性化因子RANKLの、腸管免疫機構における新規の役割を解明した。腸管パイエル板に存在する新規のRANKL発現間葉系細胞を同定し、これらが腸管上皮M細胞の分化とケモカインCCL20発現を制御することで、IgA産生を介した腸内細菌叢の多様性維持に寄与することが明らかになった。本成果により、新規間葉系細胞であるM細胞誘導細胞(M cell-inducer (MCi) cells)を標的とした炎症性腸疾患の治療やワクチン開発に繋がる可能性が示された。また進行性骨化性線維異形成症(FOP)など、関節リウマチ以外の骨と免疫の相互作用が絡む疾患についても焦点を当て、病態マウスモデルの樹立及び解析系の確立を進めている。 ③ 骨髄微小環境における骨による免疫制御 骨構成細胞である骨芽細胞がIL-7を介してリンパ球分化を制御することを証明した。敗血症では発症後、二次感染の一因ともなるリンパ球減少が観察される。敗血症モデルマウスの解析により、骨芽細胞減少を起因とする著しい骨量減少が起きていることを見出し、敗血症の生命予後を左右するリンパ球減少が、骨芽細胞によるリンパ球分化制御の破綻が原因であることを突き止めた。従って、敗血症発症早期の過剰な炎症をコントロールする従来の治療に加えて、発症後の免疫力低下を抑制するための新規治療ターゲットとしての骨芽細胞の可能性を提唱できた。
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今後の研究の推進方策 |
① RA等の自己免疫疾患の病態解明と治療法開発基盤の構築 前年度に引き続き、関節炎と骨破壊を増悪化する新規T細胞サブセット特異的発現因子の遺伝子改変マウスの作製を行い、表現型の解析を通して本細胞の分化・機能制御機構の解明を目指す。さらにRAと同様に炎症性骨破壊が認められる歯周病においても、このT細胞が炎症と骨破壊の増悪化に寄与するか検討を行う。胸腺における自己寛容成立機構については、転写因子Fezf2遺伝子の発現制御機構を明らかにする。並行して、胸腺内にFezf2依存的な末梢自己抗原の人工ペプチドを胸腺へ注入することで、自己免疫寛容を誘導する新たな治療法を確立する。また、胸腺T細胞の発生、末梢におけるナイーブT細胞や活性化T細胞の分化・維持に関わる制御因子の解析も進め、新たな免疫制御法の確立に挑む。 ② 新たな骨-免疫インタラクションの解明 骨折をはじめとする損傷の治癒、自己炎症、腫瘍転移などに関わるIL-17産生gdT細胞の分化制御機構の解明を進める。特に、IL-17産生γδT細胞の胸腺内分化に特異的に関わるようなシグナル伝達経路に着目して、検討を進める。また関節リウマチ以外の骨と免疫の相互作用が絡む疾患として、進行性骨化性線維異形成症(FOP)や変形性関節症(OA)などの骨疾患にも着目し、病態マウスモデルの解析を通じて、病態形成に潜む骨と免疫細胞の相互作用を分子レベルで明らかにし、新たな創薬ターゲットの同定につなげ、新規治療技術の確立を目指す。 ③ 骨髄微小環境における骨による免疫制御 これまでの解析から全身炎症が骨髄環境に与える影響を明らかにし、骨構成細胞とリンパ球初期分化の関連が見えてきた。次の展開として、炎症以外の外的ストレスによる骨髄環境障害が、免疫システムにどのような影響を及ぼすか調べる。外的ストレスの中でも、加齢、腫瘍、メカノストレス、ホルモンバランスの破綻等は骨構成細胞と密接な関係を持つ。従って、これらの刺激を中心に骨髄微小環境と免疫システムの繋がりを軸として、様々な疾患における骨髄構成細胞間ネットワークの変容を明らかにし、新たな治療戦略へと結びつける。
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