研究実績の概要 |
本課題では、骨疾患・免疫疾患における骨-免疫系作用の生理的意義を包括的に解明し、疾患克服に向けた研究基盤の構築を目指す。 ①自己免疫疾患の病態解明と治療法開発基盤の構築 : T細胞は免疫応答の中枢的な役割を担い、その分化・生存維持・活性化の制御機構を理解することは、自己免疫疾患のみならず様々な免疫疾患の病態解明と治療法開発に必要な課題である。我々はT細胞活性化に伴いタンパク質のアルギニンメチル化修飾が増強されること、並びにアルギニンメチル基転移酵素PRMT5をT細胞特異的に欠損させたマウスでは、iNKT細胞がほぼ欠失し、末梢のCD4、CD8 T細胞が減少することを見出した。PRMT5はスプライソソーム構成因子をアルギニンメチル化することにより、共通サイトカイン受容体γ鎖(γc)とJAK3のpre-mRNAスプライシングを増強させ、IL-2やIL-7といったT細胞、iNKT細胞に重要なサイトカインシグナルに必須であるを明らかにした。本研究によりγc/JAK3経路依存性サイトカインのシグナル強度がRNAスプライシングにより調節されるという全く新しい制御機構を発見した。 ②新たな骨-免疫系インタラクションの解明 : γδT細胞は、骨折の治癒、炎症性疾患や腫瘍の制御に重要な役割を果たしており、その分化制御機構の解明は重要課題である。γδT細胞は胸腺にて分化・成熟するが、それを制御する胸腺環境因子やTCRリガンドについては不明な点が多い。我々はγδT細胞制御因子の候補であるSkintファミリー遺伝子に着目し、ゲノム編集法によって11のSkintファミリー遺伝子を全て欠損するマウス(SKLD)を作製した。SKLDマウスでは皮膚の恒常性維持を担うVγ5Vδ1γδT細胞の分化が著しく障害されたが、他の免疫細胞の分化に影響はみられなかった。従って、Skintファミリー遺伝子はVγ5Vδ1γδT細胞の分化に必須であることがわかった。γδT細胞サブセットを制御する胸腺環境因子の同定、およびγδT研究に有用なマウスモデル作製の観点で重要な成果となった。またサイトカインRANKLは破骨細胞分化のみならず免疫組織形成や様々な免疫制御能を有し、骨と免疫系の共有因子の代表格として知られている。RANKLは骨量減少性疾患のみならず、がんの骨転移にも深く関与し、腫瘍細胞による破骨細胞活性化の他、RANK陽性腫瘍細胞に直接作用して骨への遊送を促す働きも有する。RANKL中和抗体デノスマブは骨粗鬆症、がんによる骨病変、関節リウマチの骨びらん抑制に承認され、骨吸収阻害薬として大きな期待が寄せられている。しかし抗体製剤処方に伴う高額の医療費は大きな問題であり、安価な低分子医薬品の開発も必要とされている。我々はマウスのがん骨転移モデルを用いて、新規RANKLシグナル低分子阻害剤が、破骨細胞分化抑制および腫瘍の骨組織への走化性の阻害という2つの作用機序により、骨転移を抑制することを明らかにした。低分子阻害剤によるRANKL阻害療法は、デノスマブの代替アプローチとしてだけでなく、がん骨転移に対する新たな治療戦略として大いに期待できる。 ③骨髄微小環境における骨免疫制御 : 我々は以前、神経・免疫制御因子であるSema 3Aが骨芽細胞系細胞から産生され、骨芽細胞自身と破骨細胞の両者に働きかけることで、骨吸収抑制と骨形成促進という二つの側面から骨の恒常性を制御する骨髄細胞間コミュニケーション分子であることを報告した(Hayashi, Nature, 2012)。この度我々は、閉経後女性では閉経前より血中Sema3A量が低下すること、骨芽細胞系細胞のSema3A発現がエストロゲンにより制御されることを見出し、エストロゲン欠乏によりSema3Aの骨量維持作用が低下することが閉経後骨粗鬆症の要因であることを突き止めた。さらにヒトでもマウスでも加齢に伴いSema3A発現量は減少しており、加齢性骨粗鬆症にもSema3A作用の低下が寄与していることが判明した。Sema3Aを基軸とした骨髄環境制御の破綻が、閉経後骨粗鬆ならびに加齢性骨粗鬆症の要因であることが判明し、骨髄細胞間コミュニケーション分子の新たな病理学的意義を明らかにすることができた。
|