研究課題
研究代表者はTLR誘導性分子群の研究から、“mRNA安定性制御機構”及び、“マクロファージサブタイプ”という自然免疫の新しい分野を立ち上げ、現在研究を継続的に進めている。以下、それぞれのテーマごとに分けて記載する。◎ mRNA安定性制御機構の解明Regnase-1の炎症制御分子メカニズムについて研究を行っている。本分子は炎症反応依存的に受けるリン酸化によってRNA分解活性が低下することを見出した。Regnase-1のリン酸化の持続時間は炎症反応が惹起されている期間と関連しており、このリン酸化はRegnase-1により抑制されていた炎症関連遺伝子の発現を一時的に解除する「スイッチ」としての役割を果たしていることを明らかにした。(田中)また、様々な臓器・細胞におけるRegnase-1の機能解析も進めている。腸管上皮細胞特異的欠損マウスを用いて解析を行っており、潰瘍性大腸炎モデルであるデキストラン硫酸誘導性腸炎に対して抵抗性をもつことを見出した。その制御機構を明らかとしていくために、メタボローム解析を行い、その検証に向けた解析を進めている。(前田)◎ マクロファージサブタイプの解析アレルギー疾患、メタボリックシンドローム、線維症にかかわるマクロファージサブタイプの研究をこれまで行ってきた。続いて、ガンに関わるマクロファージの研究を行った。インターフェロンは癌に対する治療法の1つとして使用されている。そこでI型インターフェロンによって活性化させたマクロファージは癌の進行に関与していると考え、その細胞のマイクロアレイ解析を行ってBatf2に着目した。この分子の遺伝子欠損(Batf2-/-)マウスを作製し、野生型、及びBatf2-/-マウスにメラノーマを移植した所、Batf2-/-マウスでは癌が著しく増大した。Batf2は癌の亢進にマクロファージで関与している分子であると考えられる。(佐藤)
2: おおむね順調に進展している
◎ mRNA安定性制御機構の解明(i) Regnase-1の制御分子メカニズムの解明 (田中)Regnase-1のリン酸化におけるRNA分解活性調節メカニズムの解明を目指して、様々なサイトカイン刺激時のRegnase-1の応答を調べた。その結果炎症性サイトカインの1種であるインターロイキン17(IL-17)によりRegnase-1がリン酸化を受けることが明らかとなった。IL-17は炎症関連遺伝子のmRNAの安定化を向上させることによって炎症反応を持続的に増強することが知られており、IL-17により受けるRenase-1のリン酸化がRegnase-1のRNA分解活性に直接影響している可能性が示唆された。次にIL-17によるRegnase-1のリン酸化がRNA分解活性を低下させるメカニズムの解明を試みた。まず、Regnase-1は定常状態において多量体を形成することが知られているが、IL-17によるリン酸化を受けたRegnase-1は多量体から解離することが明らかとなった。研究代表者らは、このリン酸化によるRegnase-1の単量体化がRNA分解活性の低下と関連があると考え、Regnase-1が恒常的にリン酸化を受ける条件下でのRNA分解活性を調べた。その結果、恒常的にリン酸化を受ける条件下ではRegnase-1のRNA分解活性は大きく減少し、炎症関連遺伝子のmRNAの産生を抑えることが出来なかった。このことから、リン酸化を受けたRegnase-1がRNA分解活性を失うことが明らかとなった。更に、Regnase-1のIL-17による細胞刺激時における細胞内における局在を調べたところ、リン酸化されたRegnase-1は小胞体膜から細胞質への局在が変化していることが明らかとなった。Regnase-1は小胞体をはじめとするリボソームを含む細胞小器官上に局在して、リボソームによるmRNAの翻訳を効率的に阻害することが報告されているが、このリン酸化Regnase-1のリボソームからの解離は、Regnase-1の標的mRNAの効率的な分解ができなくなることを意味し、mRNA分解活性の低下に寄与していると考えられる。以上の事から、Regnase-1はIL-17による細胞刺激によってリン酸化を受けることにより、多量体→単量体への解離、リボソームを含むオルガネラ上からの非局在化というプロセスを経てRNA分解活性が低下するというメカニズムを明らかにした。(ii) 組織・細胞ごとのRegnase-1の機能解析 (前田)腸管上皮細胞を対象としたRegnase-1-コンディショナルノックアウト(cKO)マウスを用い、大腸炎における生理的機能解析を行った。デキストラン硫酸(DSS)誘発潰瘍性大腸炎モデルでは、Reg1-cKOマウスでは大腸炎に強い抵抗を呈した。アゾキシメタン・DSS投与による大腸腫瘍形成モデルにおいても、Reg1-cKOマウスでは、腫瘍形成スコアが有意に少なかった。DSS+ラパマイシン投与によってReg1-cKOマウスの体重減少が認められたことから、mTORシグナル経路を調べたところmTORシグナル経路に関わる分子の発現上昇と直接のターゲットの分子を確認した。さらに、腸管上皮細胞内のメタボローム解析から、大腸炎の進行に伴いReg1-cKOマウスのみで亢進している代謝経路が認められた。この経路についてさらに詳細な解析を進めている。◎ マクロファージサブタイプの解析 (佐藤)これまで3つのマクロファージについて、研究を行ってきた。さらに次の疾患として癌を標的とし、そのマクロファージの活性化機構について研究を行った。インターフェロンは癌の治療法として有効な手段の一つである。またマクロファージはがん組織の中に進行に伴って集積していくことが分かっている。そこで、マクロファージの中でインターフェロン誘導性の分子は癌の発症・進行に関与していると考え、I型インターフェロンで活性化させたマクロファージの遺伝子発現データの解析を行い、制御因子の探索を行った。その結果、いくつかのインターフェロン誘導性分子の中から、Basic leucine zipper transcription factor ATF-2(Batf2)を同定した。この遺伝子欠損マウス(Batf2-/-)を作製し、メラノーマを移植した所、野生型と比較して著しい癌の増大が確認された。さらに、免疫細胞でのみBatf2が欠損したキメラマウスでも同様の結果が得られた。またこのBatf2欠損下における癌の増大は、メラノーマだけでなくカルシノーマやザルコーマでも確認することができた。次にBatf2欠損下における癌の増大のメカニズムについて検討を行った。Batf2-/-マウスの癌組織中に居るマクロファージは炎症性サイトカインの1つであるIL-12p40の産生が殆ど起こっていないことがわかった。また癌組織中のCD8+T細胞の数が有意に減少していることも明らかにした。このマクロファージにおけるCD8+T細胞の増殖能を検討した所、野生型由来の骨髄マクロファージはCD8+T細胞を増殖させたものの、Batf2-/-マクロファージは増殖能が有意に抑制されていた。またBatf2-/-マウスではCD8+T細胞自身の異常は認められなかった。IL-12p40のプロモーターアッセイを行ったところ、Batf2発現下においてそのプロモーターの活性化が確認され、ChIPアッセイの結果から、IL-12p40のプロモーターにBatf2が結合していることが明らかとなった。以上の事から、癌周辺のマクロファージはBatf2の発現が上昇するとIL-12p40を発現し、その結果としてCD8+T細胞を増殖させて、がんを抑制する機能を持っているということを明らかにした。
◎ mRNA安定性制御機構の解明(i) Regnase-1の制御分子メカニズムの解明 (田中)Regnase-1の標的遺伝子と、これまでに報告されてきたIL-17により誘導される炎症関連遺伝子群は共通しており、IL-17による細胞刺激における炎症関連遺伝子のmRNAの安定化メカニズムにおいて、今回提唱されたRegnase-1のリン酸化を通じた活性調節メカニズムは重要な寄与をもたらしていることが想定される。今後はRegnase-1のリン酸化による活性調節メカニズムの理解を更に深めるため、IL-17によってリン酸化を受けないようにRegnase-1遺伝子を改変したマウスの作製を行い、このマウスやマウス由来の細胞が様々な炎症性刺激に対して耐性を示すかどうかを検証していく予定である。更に、IL-17は様々な慢性炎症疾患の増悪に関与するTH17細胞の産生する炎症性サイトカインであり、これらの慢性炎症の亢進にRegnase-1のリン酸化による機能低下が影響していることが考えられる。今後はこれらの慢性炎症疾患の増悪とRegnase-1のリン酸化との関連について調べていく予定である。(ii) 組織や細胞ごとのRegnase-1の機能解析 (前田)Regnase-1 floxマウスと種々の細胞・組織特異的Creマウスとの交配によって、Regnase-1の役割についてシングルセ解析を中心に研究を推進していく予定である。また、本年度の研究成果について取りまとめ中である。◎ マクロファージサブタイプの解析 (佐藤)今回報告したBatf2は癌組織の中でも非常に割合が多いtumor associated macrophage(TAM)を用いた解析から同定されたものである。しかし、これまでの研究で癌組織の中には複数種のマクロファージが存在していることが明らかとなっている。そこでシングルセルレベルの解析ができる器機、もしくは多重染色ができるFACS機器を用いて、癌組織中のマクロファージサブタイプの分類とそれぞれの役割の検討を行う。マクロファージ研究に関しては、これまでに報告した線維化に関わるマクロファージのSatMがどのように線維芽細胞や上皮細胞等の非免疫系からの影響(SatM自身の遊走、または活性化)をうけるのかという研究、また、線維症の発症時期での非免疫系側での制御因子の探索の研究を現在進行中である。
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Int Immunol.
10.1093/intimm/dxy023
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