研究課題
研究代表者は、これまで取り組んできたTLR誘導性分子群の研究から、“mRNA安定性制御機構”及び、“疾患特異的マクロファージサブタイプ”という自然免疫の新しい分野を切り開いた。我々は、Regnase-1の蛋白質リン酸化および分解が、炎症関連遺伝子のmRNA不安定化や免疫反応全体に及ぼす影響について解析を継続している。今年度は、“mRNA安定性制御機構”に着目した研究の進展を図った。Regnase-1は、リン酸化を含む翻訳後修飾を介して外部刺激に応答して不活性化されるが、このリン酸化の役割については不明であった。そこで、Regnase-1のIKKキナーゼによるリン酸化に対して非感受性のRegnase-1AA/AA変異マウスを用いて調べてみると、マウスT細胞性自己免疫疾患モデルの一つである実験的自己免疫性脳脊髄炎の症状が野生型よりも抑制されており、病状の進行も遅くなることが明らかとなった。この変異マウスでの症状の低減は非血球系細胞群、特に血管内皮細胞の炎症性サイトカインIL-17に対する応答が野生型よりも弱いことが原因であることを突き止めた。IL-17刺激を受けた細胞内において、Regnase-1はTBK1/IKKiによるリン酸化を受け、このリン酸化が引き金となってRegnarse-1は小胞体から細胞質へと移行する。このRegnase-1のリン酸化に伴うオルガネラ間の局在の変化がRegnas-1のmRNA分解活性の調節に重要であることを明らかにした。実際に、CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を用いて作製したRegnase-1のC末領域を欠く変異体マウス(Regnase-1△CTD/△CTD)は、IL-17誘導性Regnase-1のリン酸化を完全にブロックし、IL-17により惹起される炎症反応を著しく低下させた。従って、IL1やIL17等のRegnase-1のリン酸化を誘発する細胞刺激において、リン酸化はRegnase-1によるmRNA分解に直接影響する重要なプロセスであることを明らかにした。また、非免疫細胞におけるRegnase-1の役割について腸管上皮細胞特異的欠損(Regnase-1△IEC)マウスを用いて調べてみると、Regnase-1がmTORおよびプリン代謝を調節することによって結腸上皮再生を制御することを明らかとした。デキストラン硫酸ナトリウム誘発潰瘍性大腸炎モデルにおいて、Regnase-1△IECマウスはコントロールマウスと比べて体重減少に抵抗性を示すとともに、細胞増殖増加およびアポトーシス減少を示した。Regnase-1△IECマウスにおいては、慢性大腸炎および腫瘍形成の進行も減弱していた。そのメカニズムとして、Regnase-1が主にmTORC1シグナル伝達分子のmRNAの安定性を制御していることを突き止めた。腸管上皮細胞におけるメタボローム解析から、Regnase-1の欠損が炎症中のプリン代謝およびエネルギー代謝の亢進に関与することを明らかにした。さらにエクトヌクレオチダーゼの発現増加は、Regnase-1△IECマウスにおける急性炎症の収束に寄与することを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
Regnase-1の各種変異マウスを用いた研究によって、IL-17を介する炎症性疾患の発症メカニズムにおけるRegnase-1の役割や、大腸炎における腸管上皮細胞でのRegnase-1の役割について明らかとすることができた。このように、生体内における様々な炎症反応においてRegnase-1が直接関与するmRNA安定性機構の重要性を実証することができた。さらに、この分子制御機構を深く掘り進めていくことによって、mRNA安定性機構の詳細な仕組みを開示していくことが期待される。その方策として、免疫・非免疫細胞の相互作用の着眼点からの研究に取り組んでいる。新規疾患特異的マクロファージの探索についても、その分類と同定をより強固にしていくため、遺伝子発現パターン解析および質量分析を行ない、サブセットの特定化の作業を推進している。
mRNA安定性制御機構に関しては、Regnase-1 floxマウスを用いた各種細胞・組織特異的Creマウスとの交配によって得られる個体からの表現型の解析を展開し、生体内における役割を明らかとしていく。さらにRegnase-1の機能部位に点変異を導入した各種変異マウスを通して、その分子制御機構および標的創薬としての可能性の探索を押し進めていく。また、IL-17受容体シグナリングにおけるRegnase-1のリン酸化とmRNA安定性との関連を明らかにすることができ、それらのリン酸化を抑制する変異マウスを取得できたので、この変異マウスをIL-17の関与する様々な炎症関連疾患モデルに適用し、Regnase-1のリン酸化と疾患の増悪との関連を明らかにする。マクロファージ研究に関しては、今後、線維化に関わるマクロファージであるSatMと他の細胞との相互作用について、総合的に線維化発症・増悪のメカニズムを詳細に検討する予定である。またこれまで、アレルギー及びメタボリックシンドロームに関わる疾患特異的マクロファージサブタイプの研究も進めてきており、これら以外の病態に関わるマクロファージの同定も進める。現在同定している新規マクロファージの分化メカニズムについても今後解明していく予定である。さらに、線維症を標的とした新規創薬開発に繋がるヒトカウンターパートを対象とした研究についても引続き進めていく。
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Proc Natl Acad Sci USA.
巻: 115 ページ: 11036-11041
10.1073/pnas.1809575115
http://hostdefense.ifrec.osaka-u.ac.jp/ja/index.html