研究課題
本研究は、地球上で海洋酸性化と温暖化進行のフロントラインである北極海において、海洋生態系の底辺を支える低次生産者(動物・植物プランクトン)に着目し、1 酸性化が炭酸塩殻を有するプランクトンに与える影響の解明、2 温暖化に伴う外来性植物プラクトンの極域繁茂の可能性、3 極域プランクトン種の特異的機能の解明を目的としている。具体的には、チュクチ海、ノースウインド深海平原を対象に、時系列セジメントトラップを用いて生物由来の沈降粒子(マリンスノー)を採取するとともに、水温、塩分、深度、溶存酸素、pHなどの各種センサーで周辺環境因子を観測する。マイクロX線コンピュータトモグラフィー法にて炭酸塩プランクトン生物の骨格密度を計測し、海洋酸性化による炭酸塩生物への影響が時間とともにどう進行しているのか傾向を明らかにする。次世代シーケンサーによる沈降粒子の18SrRNA配列を用いた定量的群集解析を行い、沈降粒子を構成する種の多様性に変化が起きているか時系列推移を明らかにするといった実施計画となっている。今年度の実績は、昨年度に引き続き、カナダ海盆の西縁及びバロー沖合に係留していたセジメントトラップを無事に回収し、再設置を行った。試料については分割し、各種化学分析を行っている最中である。また、マイクロX線を用いた炭酸塩プランクトンの骨格密度測定については、殻の薄い翼足類骨格が分析中に熱を帯びて歪むトラブルが発生していたが、今年度導入した新しい検出器により分析時間が大幅に短縮できたことから熱を帯びる前に分析を終了させることで課題解決を行うことができ、定量分析の実現に大きく前進した。また、北極域に生息する特殊植物プランクトンについて、昨年度成功したシングルクローン化、交雑細菌の除去の過程を経て、株の全ゲノム解析を行った。その結果、この生物の特許出願の準備に着手することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
北極海におけるセジメントトラップ係留系の回収及び再設置は計画通りに実施することができた。昨年度も述べたことであるが、これまでの経験上、極域の場合、海氷の状況によっては計画通りに回収や設置作業ができない場合が4割程度あるため、本科研費が開始されてから100%の回収と再設置ができているということは大成功と言える。また、マイクロX線を用いた炭酸塩プランクトンの骨格密度測定については、この手法そのものがone&onlyとなっている。国際会議等で紹介するたびに共同研究の依頼が舞い込み、国内外から依頼分析が殺到し、現時点で23機関から2000以上の試料を分析することとなった。一方で、現状の依頼分析をすべて引き受けている状態では本研究の進行に差し障りがあるため、所属先のJAMSTECと交渉の結果、新たにもう1台、MXCTの導入が実現することとなった。結果、本科研費によってJAMSTECが海洋酸性化の炭酸塩生物応答研究のメッカとして、世界にプレゼンスを示すことができている。当初計画では、ここまで国内外から依頼が殺到するとは考えていなかったため想定以上の進展と判断した。
1.海洋観測について昨年度に引き続き海洋地球研究船「みらい」による研究航海に参加し、ノースウインド深海平原ならびに、チュクチ海バロー沖合いに設置したセジメントトラップ係留系の回収・再設置を行う。CTD/採水観測を実施するとともに28年度同様の各種センサーによる観測も行う。また、回収された係留系に蓄積された1年分の各層の流向・流速データについて衛星観測による海氷広域分布データとともに時系列の解析を行う。継続して衛星による海氷分布データ取得を行う。30年度の船舶については、韓国極地研究所と共同研究協定を結んでいるところで、同研究所所有の「ARAON」にて航海を実施する予定。最終年度は、4年間の北極海の物理場の季節、年変動の傾向を把握しこれまで蓄積してきた観測結果とともに北極海における海洋環境-生態系相互作用の解明に務める。2.海洋観測試料分析/データ解析ならびに遺伝子分析手法開発29、30年度は、回収された時系列セジメントトラップ試料の生物起源粒子分析(検鏡による群集組成と18SrRNA配列を用いた定量的群集解析)を実施する。3.プランクトンの培養・飼育実験ならびにMXCT法開発北極海由来のプランクトン各種について培養・飼育実験を通じて、炭化水素合成系酵素遺伝子の改変体を作製し、直鎖炭化水素合成回路の詳細解析を進めるとともに、培養条件を変えて生育におよぼす影響を明らかにする。さらに、共生する交雑細菌の除去に成功した株について特許出願を検討する。直鎖炭化水素合成系酵素遺伝子群を他の藻類種に導入して、多様な直鎖炭化水素合成能を付与した際に、どの様な影響が生じるかを解析し、その意義について考察する。MXCT法については、大量の依頼分析が舞い込み、当初予定になかった2号機が導入されることになった。そこで効率分析を目指したシステムの全自動化ソフトウエア開発も新たに実施していく。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 3件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 11件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 8件、 招待講演 5件)
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