研究課題
本研究では、これまで紀伊半島沖熊野灘において実施されてきた南海トラフ地震発生帯掘削研究(超深度掘削は海底下約3,000mまで掘削済みでプレート境界断層まで残り約2,200m)の総仕上げとして、プレート境界断層貫通掘削までの掘削時孔内検層、孔内設置受振器による3次元鉛直地震探査、断層試料の摩擦実験、近傍からの繰り返し周回地震探査を実施する。もって断層上盤の応力場・主応力と間隙水圧、プレート境界断層の摩擦強度を解明し、それらを総合して地震・津波発生切迫度を定量的に評価することを目的とする。第2年度は、これまでの掘削によって得られたデータをまとめ上げ、モデル化し、上盤プレート上部の応力場、間隙水圧を解明した。概要は以下の通りである。1)3次元反射法データの最新技術による再解析。特に地震発生プレート境界断層から分岐断層にかけて実施。詳細な構造の実態解明、速度構造の変化が予測された。2)既存データの解析、実験的分析の蓄積、完了。海底下3,000m下までの摩擦特性計測実験を完了し、深度方向の変化が予察的に得られた。3)掘削孔内に設置してあった圧力計などの回収を実施した。10年間の記録の回収に成功した。2016年4月1日には70年ぶりに起こった南海プレート境界地震の世界初の孔内観測に成功、結果の迅速な公開を実施した。4)最終的な科学掘削目標達成のための慎重な技術的検討を掘削実施主体である海洋研究開発機構と適宜進めた。
2: おおむね順調に進展している
南海トラフ地域における既存三次元反射法地震探査データの一部を高度な反射波信号処理技術とイメージング技術を適用して新たに解析した結果、既存の解析結果に比べて高品質かつ高解像度な地下構造イメージが得られ、地震断層と想定されるプレート境界及び断層の三次元形状や、これまで理解が不十分であった付加体内部の変形構造が明らかになった。また、この解析によって巨大分岐断層の上盤側に厚い高速度帯の存在が検出された。その結果から,ライザー掘削時のVSP等の孔内計測計画を検討することが可能となった。南海トラフ東南海地震震源域の分岐断層を横断する位置のC0010A掘削孔へ孔内観測点の設置を4月~5月にかけて行うとともに、6月~7月には、設置した孔内観測点をDONET(地震・津波観測監視システム)に接続を行い、連続的な観測を開始することに成功した。また、設置中の2016/4/1には、孔内観測点の近傍でMw6.0の地震が発生し、孔内観測点およびDONETから得られたデータの解析をし、プレート境界滑りによる地震であること、地震と地震後の地殻変動を孔内観測によって高感度に観測できることを明らかにした。IODP掘削地点C0002の海底下から採取された泥質堆積物試料について、試料原位置相当の温度(51~98℃)・封圧(44~83 MPa)・間隙水圧(32~50 MPa)の下で変位速度を0.1155, 1.155, 11.55 μm/sの間でステップ状に変化させながら三軸摩擦実験を行った。結果、深度増加に伴う摩擦強度の低下傾向が認められ、深度増加に伴って摩擦強度の変位速度依存性が変化している可能性があることが明らかとなった。先端部プレート境界断層の微細構造復元にはじめて成功し、津波発生すべりとゆっくりすべりの関係が明らかとなった。
平成30年度は、10月から4ヶ月半かけて、地球深部探査船「ちきゅう」によって海底(水深約2,000m)下、約5,200mに推定されている南海トラフプレート境界断層に達する掘削が実施される予定であるが、本研究の研究分担者、協力者がその中心となって実施する。1. 船上において、孔内検層・計測、掘削泥水漏洩観測、掘削コア試料擬弾性変形、および鉛直地震探査に基づいて、プレート境界断層上盤側の現在の応力場・主応力、および間隙水圧を定量し、プレート境界断層に作用する剪断応力と有効垂直応力(=垂直応力-間隙水圧)を求める。回収されるカッティングス(掘削による岩片)の船上分析によって、上盤プレートを構成する地質、年代、物性、化学的特徴を明らかにする。掘削コア試料のX線CT画像処理によって断層の内部構造、物性を明らかにする。2. 掘削航海終了後、平成31年度7月までに、回収された断層およびその上盤、下盤の岩石試料を用いて、摩擦特性、水理特性を決める。3. 平成29年度設置に成功した付加体先端部、南海トラフ直近の孔内観測装置(掘削地点C0006)によるスロー地震の震源把握精度を向上させるため、三次元地震反射データ再解析地域を平成30年度に拡大する。最終年度の平成31年度は、平成30年度のデータ及び試料の解析・分析を実施し、本研究のまとめを行う。本研究によって得られた成果を総合し、南海トラフに予想されている巨大地震の切迫度の定量的評価を探り、本研究の目的を達成する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (25件) (うち国際共著 5件、 査読あり 24件、 オープンアクセス 23件) 学会発表 (86件) (うち国際学会 60件、 招待講演 16件) 備考 (1件)
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