研究課題/領域番号 |
15H05721
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
萩原 正敏 京都大学, 医学研究科, 教授 (10208423)
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研究分担者 |
細谷 孝充 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 教授 (60273124)
鶴山 竜昭 京都大学, 医学研究科, 准教授 (00303842)
武内 章英 京都大学, 医学研究科, 准教授 (90436618)
大江 賢治 京都大学, 健康長寿社会の総合医療開発ユニット, 特定講師 (30419527)
飯田 慶 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (00387961)
奥野 友紀子 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (00372524)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | スプライシング介入ルール / RNA病モデル / トランスクリプトーム解析 |
研究実績の概要 |
本研究は、リード化合物添加細胞の全トランスクリプトーム解析から導き出されるスプライシング「介入ルール」を解明し、CRISPR-Cas9技術を用いてRNA病患者のゲノム配列を挿入したRNA病モデルiPS細胞やモデルマウスを作成することにより、RNA病等に対するポストゲノム治療薬を創製する新しいケミカルバイオロジー分野の創出を目指している。これまで見出してきた選択的スプライシング介入化合物を用いて、全トランスクリプトームにおける選択的スプライシングに対する影響を解析した。RNA-Seqにより得られた情報を用いて、MISO(Mixture-of Isoforms)により変化するエクソンを同定してきた。平成27年度は、ヒト細胞とマウス細胞の比較、組織特異的比較により化合物のもつスプライスコードに対する「介入ルール」を決定した(Sakuma et al. BMC Mol Biol 2015)。さらに変化するエクソンと前後のイントロン配列をSVM_BPfinder(イントロン, ブランチポイントの配列解析), MaxEntScan (エクソン-イントロン境界の配列解析), SpliceAid (スプライシング因子の解析)によりスコア化した。化合物により変化するエクソンと変化しないエクソンを比較検討することにより化合物の選択的スプライシングに対するルール化を行った。実際、最近の我々の解析では、遺伝子配列に基づくTG003による独自のスプライシング介入ルールが存在することが明らかになってきた(Iida et al. 論文投稿準備中)。このTG003スプライシング介入ルールを元に、NCBI ClinVarデータベースに登録されている61,410件の遺伝子疾患関連変異を解析した結果、介入ルールに合致しており治療効果が期待できる50個以上の疾患を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)同一条件で処理した細胞より高品質のRNAを回収する方法を確立し、RNA-Seqにより得られた情報を用いて、MISO(Mixture-of Isoforms)などによりトランスクリプトームの変化を検討し、スコア化した。これにより、当初想定した化合物の選択的スプライシングに対するルール化を行ったばかりでなく、広範な化合物のトランスクリプトームに対する影響を測定した独自の定量的データベースを構築出来た。この独自データベースを用いて、作用機序が未知だが有用な薬効を有する化合物の作用点を推定出来ることが判明した。 2)我々が見出したTG003はClkによるSR蛋白のリン酸化を阻害することによりエクソンのスキッピングを誘導するというメカニズムは判明していたが、家族性自律神経失調症におけるスプライシング異常を是正する化合物としてRECTASを見出した(Yoshida et al. Proc Natl Acad Sci USA 2015)。RECTASの作用機序に関しても解明することができ、RECTASによる独自のスプライシング介入ルールについても解析が進展した(Ohe et al. 論文投稿準備中)。 3)RNA病の異常スプライシングより得られた「異常スプライスコード」とTG003およびRECTASなどの化合物「介入ルール」のマッチングにより、化合物の効果が予想される標的RNA配列、標的RNA病を選択しリスト化し、大手製薬会社との共同開発契約を締結することが出来た。 4)TG003は血中での安定性が悪く経口投与が困難であるとの問題を抱えていた。そこで、TG003と同様のスプライシング是正活性を有するが、血中で安定な化合物のスクリーニングを実施し、新たな候補化合物を見出した。この化合物はマウスに経口投与可能で、マウス筋肉でのSR蛋白リン酸化抑制効果やスプライシング是正効果を確認出来た(Sako et al. 論文投稿中)
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今後の研究の推進方策 |
前年に引き続いて、RNA病の異常スプライシングより得られた「異常スプライスコード」と化合物「介入ルール」のマッチングにより、化合物の効果が予想される標的RNA配列、標的RNA病を選択する。具体的には、化合物の効果を組織特異的なトランスクリプトーム解析により検証し、各組織でのルールを決定する。これらのルールをRNA病の異常スプライシングが認められる主組織における「異常スプライスコード」とマッチングを行う。マッチングの結果、適応が可能な標的RNA病に関与する異常遺伝子を組み込んだレポーター細胞を作成し、定量的なスプライシング評価実験により化合物のスプライシング介入効果を検証する。マッチングにより選択した候補RNA病に関して、より病態に近い形で評価するために、CRISPR-Cas9法により遺伝子変異導入したモデルiPS細胞を構築する。遺伝子変異を細胞に導入することで、この細胞を用いた異常スプライシングが起こる分子メカニズムの解明、スプライシング介入化合物のスクリーニング、さらにその化合物の作用機序の解析と構造展開および作用メカニズムの解明が可能になる。さらに次世代シークエンサーを用いての疾患治療シーズ化合物によるスプライシング介入の作用機序の解明までを目指す。ヒトRNA病の動物モデルに関しても、CRISPR/Cas-9法あるいは、ヘルパー型アデノウイルスベクターを用い、RNA病の原因となるヒトの遺伝子をマウスに導入し、RNA病モデルマウスを樹立する準備を始める。
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