研究課題
本年度は、RNAスイッチシステムによる標的哺乳類細胞の選別、運命制御技術の確立を基軸にすえ研究を進めた結果、以下の研究成果を得た。A. 人工RNA回路による精密な細胞運命制御我々は、合成RNAを細胞に導入することで機能するさまざまな人工回路を哺乳類細胞内で構築した。RNAとRNA結合タンパク質から構成される人工回路の作製に取り組んだ結果、細胞内部状態を検出できる回路、多段階のシグナル伝達回路、細胞内の状態を保持するスイッチ回路などの開発に成功した。さらにモデル実験として、人工RNA回路を細胞集団に導入することで、標的細胞のみ細胞死を誘導することに成功した。今後、細胞内の状態に応じて、安全かつ精密にその運命決定を制御できる人工回路の構築が期待される。B. マイクロRNAスイッチによる標的生細胞の選別・自動除去システムの開発我々は、合成mRNAをiPS細胞に導入することにより、 iPS細胞に特異的に発現するマイクロRNA (miRNA) の活性を検知してiPS細胞を精密に見分け、部分的に分化したiPS細胞をも識別・除去できる方法 (miRNA-302スイッチ) を開発した。この合成mRNAを細胞に導入することで、iPS細胞とそれ以外の細胞が混在した細胞集団からiPS細胞を選択的に識別・分離でき、生体内での奇形腫の形成を抑制できた。また、分化した神経細胞に混在するiPS細胞を機械を用いることなく自動除去することに成功した。さらに、わずかなmiRNA活性の差(2倍弱程度)に基づき、異なる種類の生細胞を精密に分離する方法の開発にも成功した。上記成果は、細胞内部の状態を「人工RNAで精密に識別」することで、これまでの技術では困難であった、細胞内状態に応じた安全かつ精密な運命制御技術へと発展できる。
2: おおむね順調に進展している
当初目的に掲げた課題の一つである、「標的哺乳類細胞の選別・運命制御法の開発」に成功した。ここでは独自に開発したマイクロRNAスイッチ技術を活用することで、iPS細胞を含む様々な哺乳類細胞を自由に選別、できることが明らかとなった。また、人工RNA回路を活用することで、細胞内状態に応じて細胞死を誘導することに成功し、本目的をほぼ達成したため、研究は順調に進展していると考える。
本研究目的に掲げた、RNAスイッチや人工回路の機能拡張、及び細胞内で機能する人工RNPナノ構造体の構築を目標に研究を推進する。人工RNAを細胞内に直接導入する技術を活用することにより、標的細胞内でナノサイズ人工RNAスイッチやRNP構造体(RNA scaffold)を構築し、細胞内で発現する特定のタンパク質をRNA 構造体に精密に集積・活性化させることで、シグナル伝達を特異的に制御する技術を開発する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 12件) 産業財産権 (4件)
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