研究課題/領域番号 |
15H05722
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齊藤 博英 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (20423014)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | RNA / RNP / 生体内発現 / 合成生物学 / 発生 / 分化 / 幹細胞 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
本研究では、(1) RNAスイッチによる標的細胞の選別と運命制御、(2) タンパク質の細胞内空間配置を制御する人工RNAナノ構造体の設計と構築、(3) 生細胞内における人工RNPシステム進化系の創出、の3つの課題の達成を通して、細胞内の状態に応じた自律的な遺伝子操作を実現し、安全かつ精密な細胞運命制御技術を開発することを目的としている。 このうち課題1については前年度にほぼ達成し、細胞内の特定のマイクロRNA活性に基づいて細胞種を識別することに成功していた。本年度には、マイクロRNA応答mRNAスイッチを改良し、それを発現するDNAをヒトiPS細胞のゲノムへ挿入することで、細胞内部状態の変化を長期間にわたって観察する技術を開発した。実際に、未分化な細胞が分化していく過程を継続的に可視化することに成功した(Nakanishi H., et al.;Biomaterials,2017)。 また本年度には、課題2にも取り組み、標的タンパク質を集積させることが可能なナノサイズの人工RNP構造体(RNA scaffold)を構築した。この人工RNAを細胞内に直接導入することによって、標的細胞内で発現するアポトーシス誘導タンパク質をRNA構造体上に精密に集積させて活性化させ、細胞死シグナルの発生・伝達を特異的に制御することができた。このRNA scaffoldを、細胞内の特定のタンパク質に応答するよう改変することで、細胞内状態に基づく細胞の種類に応じた機能・運命制御が実現できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で掲げた3つの課題のうち、課題1「RNAスイッチによる標的細胞の選別と運命制御」については、細胞のマイクロRNA活性に基づいて細胞種を識別することに成功しているほか、不要な未分化細胞のみを選択的に除去することや、そのスイッチを長期間にわたって機能させて細胞の分化過程を観察できるようにするなど、当初の目標はほぼすでに達成できている。 課題2「タンパク質の細胞内空間配置を制御する人工RNAナノ構造体の設計と構築」についても、細胞内での特定のタンパク質の集積・局在化に成功し、それによる細胞シグナルの制御にも成功している。このシステムを利用して、現在、細胞内のマーカータンパク質に対する応答性を持たせるよう改変を進めている。それによって、細胞種特異的な標的タンパク質の細胞内局在制御および細胞運命制御が実現できると考えている。 課題3「生細胞内における人工RNPシステム進化系の創出」については、細胞内の標的タンパク質に応答し、対象遺伝子の発現を制御できる人工RNA配列を取得する実験系の開発を始めている。また、既知のタンパク質結合RNAモチーフをRNAスイッチに利用する上で、標的タンパク質の検知効率を高めることが可能な、一般性を持つと期待されるRNA配列改良法・設計法を見出しており、課題3も問題なく達成できると考えている。 このように、研究は計画通りに順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で達成を目指す3つの課題について、それぞれ以下のように研究を進める。 (1) すでに、細胞内の特定のマイクロRNAを検知して、対象遺伝子の発現を抑制するオフスイッチの開発に成功した。そこで次に、特定のマイクロRNAを検知して対象遺伝子の発現を活性化するオンスイッチを開発する。また、そのオンスイッチをこれまでに開発したオフスイッチと組み合わせることで、標的細胞の運命をより精密に制御できるシステムを構築する。 (2) 作製したRNAナノ構造体をもとに、iPS細胞等の幹細胞やがん細胞内で特異的に発現する特定のタンパク質を検知し、目的のシグナルを出力できる人工RNAナノ構造体を作製する。そのために、様々な人工RNAナノ構造体を細胞内で構築し、その機能を評価する。 (3) 細胞内の標的タンパク質に応答し、対象遺伝子の発現を制御できる人工RNA配列を取得するシステムを確立する。そのために、細胞抽出液を利用した人工mRNA翻訳系および細胞レポーターアッセイ系を組み合わせ、RNAランダム配列プールから標的タンパク質に応じて機能を示すRNA配列を取得できる新技術を開発する。
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