研究課題
本年度では、細胞内の状態変化に応じた自律的な遺伝子操作を実現し、安全かつ精密な細胞運命制御技術を開発するために以下の研究を実施した。(1)細胞内部の状態を検知し、目的外来遺伝子発現のオン・オフを切り替えることができる人工RNAスイッチシステムを構築し、目的細胞を精密に同定すると同時に、その運命を特異的に制御する新技術を開発した。モデル細胞にてフローサイトメーターを用いずに90%以上の純度で細胞を選別することに成功した。これまで抗体とフローサイトメーターで取得していたが、本年度の成果により細胞内の情報を元に目的の細胞を大量に取得する技術を構築できると考えられ、再生医療への応用が期待される。また、(2) タンパク質を細胞内で集積しグラニュールを構築した。今後、RNA結合タンパク質と組み合わせ、タンパク質及びRNAの局在を空間的に制御できる人工RNA-protein構造体を開発することで、細胞機能や細胞内構造体自体の構築原理の解明を行う予定である。(3)RNAのライブラリを細胞内に導入することで、特異的な細胞内環境に応答するRNAをセレクションする技術を開発した。この技術を用いて、細胞種特異的に翻訳制御されるmiRNAスイッチを網羅的に検出することに成功しており、検出されたmiRNAスイッチの活性は、個々のスイッチを用いて得られた活性と高い相関を示すことが示されている。今後はこの技術を用いて、希少細胞等の価値の高い細胞で特異的に翻訳制御されるmRNAを探索し、移植医療のための細胞を選別するためのRNAスイッチの開発に利用する。
2: おおむね順調に進展している
本研究で掲げた3つの課題のうち、課題1「RNAスイッチによる標的細胞の選別と運命制御」については、細胞のマイクロRNA活性に基づいて細胞種を識別することに成功しているほか、フローサイトメーターを用いずに大量の細胞を調製するための基礎技術の開発に成功し、医療への応用も視野に入る段階となっており、当初の目標はぼぼ達成している。課題2「タンパク質の細胞内空間配置を制御する人工RNAナノ構造体の設計と構築」については、細胞内での特定のタンパク質の集積・局在化に成功し、それによる細胞シグナルの制御にも成功している。また、新たに細胞内にタンパク質グラニュールを人工的に構築する手法を取り入れた。これを改良し、グラニュール内にRNAを取り込むことで人工RNA-protein複合体を構築し、RNAの局在等を制御することで細胞の翻訳や細胞自体の運命制御を試みている。課題3「生細胞内における人工RNPシステム進化系の創出」については、細胞内の標的タンパク質に応答し、対象遺伝子の発現を制御できる人工RNA配列を取得する実験系の開発を始めている。これまでに、人工的なRNAスイッチライブラリを合成し、これを細胞内にてセレクションすることで、目的の細胞で機能するRNAスイッチを取得する方法をモデル細胞で確立した。以上のように、研究は計画通りに順調に進展している。
本研究で達成を目指す3つの課題について、それぞれ以下のように研究を進める。(1) これまでに、miRNAに応答するスイッチを組み合わせることで、特定の細胞のみをフローサイトメーターを用いずに取得する方法を確立したので、これをiPS細胞から分化した心筋、神経細胞へ適用することで移植用の細胞を大量に取得する方法を確立する。(2) RNA-protein グラニュールを構築し、RNA結合タンパク質の種類、個数、RNA側の結合モチーフの数などのパラメーターから、グラニュールの構築原理の解明を行う。さらに、RNA-protein相互作用を利用することで、グラニュールによる翻訳制御を行う。(3) これまでに、合成RNAライブラリを外部から細胞内に導入し、細胞内でセレクションを行う方法をモデル細胞で確立した。合成RNAライブラリの塩基修飾の拡張、RNAライブラリの配列またはモチーフの拡張を行うとともに、希少細胞において同様に細胞内セレクションが可能であるかどうかを検討する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 3件、 招待講演 14件) 図書 (1件) 備考 (4件) 産業財産権 (8件) (うち外国 5件)
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