研究課題
本課題では、 性に特徴的な社会行動制御の脳内機構について、ERα とERβを介した性ステロイドホルモンの「活性作用」と「形成作用」に着目して研究を進めている。28年度には主に以下の課題に取り組み、原著論文、学会発表として成果発信をすることができた。1)内側視索前野および内側扁桃体における脳部位特異的なERα、ERβの欠損が、母親雌マウスが自身の仔に対して示す養育行動と、テリトリー内に侵入してくる雄マウスに示す攻撃行動の表出、さらに出産後の不安レベルに及ぼす影響について解析した。その結果、内側視索前野でのERαの欠損は養育行動の低下となったのに対し、内側扁桃体でERαを欠損させてもいずれの行動にも大きな変化をもたらさなかった。一方、ERβの欠損は、どちらの脳部位においても養育行動には影響しなかったものの、内側視索前野のERβ欠損は攻撃行動の亢進を引き起こしたのに対し、内側扁桃体でのERβ欠損は攻撃行動の抑制と不安行動レベルの亢進を引き起こした。これらのことから、ステロイドホルモンによる出産後雌の養育行動と攻撃行動の制御には、各々異なる脳部位でのERαとERβ が関与していることが明らかとなった。2)ERβ を介したステロイドホルモン作用のメカニズムを解析するためには、ERβ 発現細胞を同定することが必須であるが、現在、信頼性の高い抗体が存在しない。そこで、ERβ をRFP標識したTgマウスを作製し、その神経解剖学的特性の解析を行った。その結果、先行研究で報告されているERβ の局在と一致する結果が得られたばかりでなく、ERβ 発現の性差を示唆する結果が得られた。このことは、社会行動神経ネットワーク機構におけるERβ の役割に関する今後の解析の基盤として、極めて重要な知見であると言える。
2: おおむね順調に進展している
27年度に引き続き28年度にも、RNA干渉法を用いて脳部位特異的にERα、ERβの発現を阻害したマウスでの社会行動の表出の変化に関する解析が順調に進んだ。雄、雌の各々において、性に特徴的な社会行動の制御に果たすERα、ERβの役割に関する知見を得ることができた。加えて、当初の計画通り、ERα発現細胞特異的にその神経活動を光遺伝学および薬理遺伝学的に操作したマウスでの社会行動の解析も現在、順調に進みつつある。一方、ERαに加えて性ステロイドホルモンによる社会行動制御に重要であることがわかっているERβに関しては、マウスの脳内のERβを認識する信頼性の高い抗体が存在していないことをはじめとして、課題が多く、研究の進捗をやや遅らせている。しかし、我々が開発したERβを標識したTgマウスの有効性が28年度中の解析で十分に確認されたこと、ERβ-Creマウスの作製も現在進んでいることから、29年度以降にはERβに関する解析も急速に進むものと期待している。以上のことから、おおむね順調な進展と自己評価した。
(1)28年度には、社会行動神経ネットワークの個々の脳部位でのERαあるいはERβの役割のみならず、ネットワーク全体での統合的な制御機構の解析を進めることを目指した研究に着手した。技術面では、ERα-Creマウスを導入するとともに、光遺伝学および薬理遺伝学的解析に必要なウイルスベクターの準備、ファイバーフォトメトリーシステムの立ち上げを完了した。29年度には、これらのリソースを使用して、個々の脳部位においてERαを発現する神経細胞の活動を特異的に刺激、あるいは抑制することにより、社会行動神経ネットワーク全体にどのような神経生理学的、神経生化学的な変化が見られるのか、さらに社会行動の発現にどのような影響が見られるのかの解析を進める。また、課題となっているERβ関連のリソースについても、現在、抗体およびCreマウスの作製を進めており、29年度中には実際の解析に使用できる予定である。(2)ERαの多型解析については、当初計画していたコンソミックマウスを使用して行う解析がマウスの繁殖に問題があったため、計画を変更して、新たに遺伝子多型を示すマウスの作出に取り掛かっており、これについても29年度中には行動解析を開始できる予定である。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (38件) (うち国際学会 9件、 招待講演 11件) 図書 (2件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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