研究課題/領域番号 |
15H05728
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小野 善康 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (70130763)
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研究分担者 |
池田 新介 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (70184421)
芹澤 成弘 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (90252717)
松島 法明 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (80334879)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | 長期不況 / 資産選好 / 地位選好 / 経済実験 / アンケート調査 / 制度設計理論 / オークション |
研究実績の概要 |
1.長期不況の理論的枠組みの構築、2.それを実証的に裏付けるアンケート調査、3.長期不況によって発生した余剰資源を活用するためのメカニズムの構築、という本研究の三本の柱について、本年度はそれぞれ以下のように研究を進めた。
[テーマ1] 資産選好を持つ家計行動をモデル化し、従来のマクロ経済学の有効需要分析と同様の簡潔さを持ちながら、ミクロ的基礎を持つ分析手法を開発した。また、社会の平均資産保有量と自分の保有量との差から効用を得るモデルを使って、長期不況を導き出した。さらに、資産選好と流動性選好を区別することにより、ゼロ金利のもとで長期不況が生まれることも明らかにした。 [テーマ2] 本年度は、アンケート調査を実施した。平成15年~平成24年に21世紀COEプログラムおよびGCOEプログラムによって行ったアンケート調査によるパネルデータの部分的な継続を念頭におき、マクロ動学分析の前提を実証面から検討する新しい調査票を作成した。調査は訪問留置法によって行われ、約90%という高い回収率を得ることが出来た。 [テーマ3] 高度成長時代に建設されたマンションの多くが老朽化しており、潜在的に膨大な建て替え需要があり、新規雇用を創出する可能性を持っている。しかし、立て替えの意見調整は難しく、実際に立て替えられた例はごくわずかである。立て替えをスムーズに進ませるために、戦略的行動のインセンティブを抑え、マンションの居住権への需要に関する真の情報を引き出して、各部屋の居住権を効率的に配分するルールについて研究した。最少価格競争均衡ルールと呼ばれるルールが、理論的に上記の目的のために最適であり、かつ同時せり上げオークションという一般に使用されている方法でその配分と一致することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までの進捗状況は「(1)当初の計画以上に進展した」である。それぞれのテーマについて、その理由を以下に記す。
[テーマ1] 当初の計画通り、個人の効用に資産選好や地位選好を取り入れ、簡潔かつミクロ的基礎を持つ不況分析の枠組みが構築できた。さらに、これまでの分析では長期不況では金利がプラスで高止まりするという性質が得られていたが、資産選好と流動性選好を区別することにより、ゼロ金利で長期不況が起こることを説明できた。さらに、当初の計画以上の展開として、経済成長から長期不況に向かう経路を導く予備的モデルを構築した。 [テーマ2] 今年度実施したアンケート調査では、既存の質問とともに新規の質問に対しても、約90%と当初の期待より高い回収率を修めることができ、来年度以降の分析を進める上で十分な進捗を得た。そこではGCOEプログラムアンケートからの継続的な質問に加え、マクロ動学分析に関わる質問を新たに追加した。継続的な質問として、危険回避度、時間割引率などの選好パラメターに関する質問を採用した。新規の質問としては、地位選好や物価予想に関する質問を追加した。たとえば地位選好について誰と比較をするのか、比較する資産の中身は、貨幣から株式や土地、耐久消費財まで多岐に渡る中で、何を用いているのかを明らかにした。物価予想に関しては、何を判断材料として、どのような予想を立てているかを尋ねた。 [テーマ3] 最少価格競争均衡ルールと呼ばれるルールが、マンション建て替えなど需要創出に重要な経済問題を解決する方法として理論的に最適であり、同時せり上げオークションなどを援用することにより現実的な実施可能性もあることも示した。このように、需要創出のための制度設計の理論的研究を円滑に開始し、重要な研究成果を得た。理論的な研究を経済実験により検証するために実験プログラムを用意し、そのためのPCラボの環境も整えた。
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今後の研究の推進方策 |
分析が計画以上に進んでいるため、当初の計画に加えて、本年度、新たな進展のある問題についても着実に進めていく。各テーマについて、具体的に説明する。
[テーマ1] 多くの先進国が高度成長を続けた後に長期不況に陥っている。資産選好を持つ家計からなる経済を前提に経済動学の手法を使って、この理由を理論的に分析する。さらに、長期不況の分析については、閉鎖経済だけでは考えられない問題も多いため、長期不況モデルの国際経済への拡張についても考えていく。 [テーマ2] 今年度以降も計画通り、継続的にアンケート調査を実施する。私たちの実施しているアンケート調査のように、同一個人の選好パラメターについて継続的に質問した調査は世界的に貴重で価値がある。これからの研究の一つとして、失業や所得の低下により、人々の選好パラメターがどのように変化するのかを検証する。不況時に人々の選好パラメターに変化が生じることで、通常時以上に家計消費が抑制され、それが長期的な不況に陥る要因の一つになっている可能性について考える。次に、物価変動に対する予想とその判断材料についての質問から、人々が何を判断材料としているかで、物価予想がどのように異なるのかを明らかにする。さらに物価予想が家計行動に与える影響を見ることで、家計の物価に対する期待形成が長期不況を招くメカニズムを探る。 [テーマ3] 平成 27 年度のマンション建て替え問題の理論的研究成果をもとに、より広範かつ複雑な問題に取り組んでいく。エネルギー転換問題においても、既存システムにより発電された電力と新発電システムによって発電された電力が、市場で円滑に取引される制度設計を理論的に研究していく。さらに、このような理論的な研究結果を経済実験により検証する。また、高齢者医療・介護の実証分析と効果的な補助金制度についても研究する。
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