研究課題
平成27年度には心理・行動・脳構造に関してこれまで蓄積した大規模一般人データに新たな心理・行動・機能的脳撮像データを追加すると同時に、参加者の唾液から遺伝子多型データを採集し、これらの要因間の関係性についての分析を進めた。その結果、以下の知見が27年度中に論文化した。知見1:オキシトシン遺伝子(OXTR)のAA多型の持ち主はそれ以外の人たちに比べ一般的信頼が高く、また信頼ゲームにおいて実際に相手を信頼する傾向をより強く見せる。ただしこの傾向は男性だけに見られ、女性には見られない。知見2:一般的信頼には、これまで注目されてきた他者の人間性についての信念である認知的信頼に加え、信頼すること自体に対する選好としての感情的信頼がある。認知的信頼は信頼ゲームにおける信頼行動を予測しないが、感情的信頼は信頼行動を予測する。知見3:学生を対象として実施した囚人のジレンマでの意思決定時における機能的脳撮像実験結果の分析を進め、協力的傾向の強い参加者と利己的傾向の強い参加者との間に偏桃体及び背外則前頭前野の体積とその活動に差があることを明らかにした。この結果は一般に協力的傾向が強い参加者は自動的に協力行動を取りやすいのに対して、利己的傾向の強い参加者は熟慮の上で非協力行動を取る傾向があることを示している。同様の知見は感情再評価傾向を用いた分析においても明らかにされており、自発的利他行動が直感的に取られやすいのに対して、利己的行動は感情を認知的に再評価したうえで取られやすいことが示されている。これらの研究成果に加え、27年度には無条件で自発的な集団間攻撃行動が実験室ではほとんど取られることがないという知見、心の文化差を説明する原理としての社会的ニッチ構築アプローチの有効性を示す知見などが得られている。また自己観の文化差とマクロ変数としての社会制度との関連を示す国際共同実験の準備作業を進めた。
2: おおむね順調に進展している
研究計画全体は概ね予定通り進行したが、脳構造・脳活動と実験ゲームでの行動との間に予想と異なる関連性(背側前頭前野の灰白質の厚い協力的傾向の強い参加者は直感的に協力行動を選ぶが、背側前頭前野の灰白質の薄い利己的傾向の強い参加者は熟慮の上で非協力行動を選ぶ)を発見したので、この発見の理論的意味を明らかにするために行動実験デザインの修正を行ったため、予定されていた行動実験を年度内に終了できなくなり、28年度にその実施を一部延期した。
上述のデザイン修正実験は28年度中に終了しており、28年度以降は大幅な研究計画の変更の必要性はない。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 17件、 招待講演 1件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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