研究課題/領域番号 |
15H05731
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木村 勇気 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (50449542)
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研究分担者 |
川野 潤 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (40378550)
田中 今日子 北海道大学, 低温科学研究所, 学術研究員 (70377993)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ / 水和層 / 結晶成長 / その場観察 / 透過電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
核生成は物質形成の始まりであり、物理的、化学的なメカニズムの解明は多分野にまたがる非常に重要な課題である。本研究では、1)気相からの核生成実験、2)計算機シミュレーション、3)核生成の透過電子顕微鏡(TEM)中その場観察実験の3つのアプローチを行うことで、核生成と前駆体のかかわりを直接的に示すことを目的としている。本年度は、それぞれに関して、以下に記す実績が得られた。
1)気相からナノ粒子が生成する場合であっても、初めに生成したクラスターが成長ユニットとなり、方位をそろえて接合しながら成長することで、最終生成物が形成することが分かった。結晶成長分野で最近注目されている多段階核生成の解明に迫る成果であり、論文としてまとめてNanoscaleに報告した。 2)昨年成功した、最大1500万の希ガス分子(Lennard-Jones分子)を用いた長い待ち時間の計算による、気相から過冷却液滴への核生成と液滴からの結晶化という多段階核生成過程の再現をまとめ、Physical Review Eに報告した。 3)コンクリートの劣化を防ぐ為に使われるシリカ粒子と水酸化カルシウム溶液を用いて単純化したコンクリート化の初期過程のTEM中その場観察実験を行った。その結果、まずシリカ粒子の膨潤によってコンクリート内の細孔が埋められていき、その後、カルシウムケイ酸塩水和物が形成して粒子同士をつないでいくことで固化が進むプロセスを捉えた。わずか0.03 nm/秒というシリカ粒子が膨潤する典型的な速度の実測にも成功した。溶液セルを用いたTEMその場観察実験により、他の手法では殆ど不可能である個々のナノ粒子の水和による膨潤や溶解、成長の微小な速度を求めることが可能になった。本成果を論文としてまとめ、Industrial & Engineering Chemistry Researchに報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)気相からの核生成実験では、鉄ナノ粒子の物理定数の決定に成功した。また、酸化物ナノ粒子の核生成過程を赤外スペクトルでその場測定することで、構造の経時変化や多段階核生成過程を捉えることにも成功し、成果は順調に挙がっている。これらの成果は、当初の予想を超えて天文学、惑星科学分野への大きな波及効果があり、Science Advancesをはじめとした高IFのジャーナルなどに8報の査読付き論文を報告した。 2)大規模分子動力学計算では、粒子数を増やすと共にモデルを検証することで、核生成の待ち時間の長い計算が可能になり、気相から過冷却液滴への核生成に加え、液滴からの結晶化という、多段階核生成過程の再現に成功した。これは、(1)で得られた実験の成果と整合的であり、実験とMD計算の結果が初めて直接比較可能になると共に、本研究課題の目的である、核生成と前駆体のかかわりを直接的に示す成果の一つとなった。さらに、化学反応を伴う核生成における初期構造の変化を理解するために、近年開発が進む量子化学計算に基づく反応経路自動探索法を、気相からの核形成に適用する試みを始めた。テトラマーまでの酸化アルミニウムクラスターの安定構造が効率よく探索できている。これらの内容に関して11編の査読付き論文を公表しており、すでに研究の完遂が見えている。(3)TEM観察では、個々の粒子が核生成し、成長していく初期過程の“その場”観察を進めており、6報の査読付き論文を報告している。特に、リゾチームタンパク質結晶の核生成過程のその場観察に成功し、米国科学アカデミー紀要(PNAS: IF = 9.661)にハイライト論文として紹介された。これらの成果は、核生成の描像解明に向けた大きな進展であり,核生成理論モデルの発展に大きく寄与すると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、核生成には気相(液相)から液滴(dense liquidまたは非晶質)が生成する過程と、その液滴が過冷却(過飽和)となって結晶化する少なくとも二つのステップが存在することが明確になってきた。H30年度以降は、水・氷の核生成実験を従来の条件では行われていない、より小さい粒子サイズ(数十nm)、かつ、大きな過飽和環境下で進めることで、我々が発見した気相からの核生成のスケーリング則の適用性を検証する。さらに、酸化アルミニウムや炭酸カルシウム、タンパク質などを用いて過冷却液滴が生成した後に結晶化するプロセスについて明らかにする。ここで、近年開発が進む量子化学計算に基づく反応経路自動探索法を核生成に導入した手法を、セラミック材料として研究例の豊富な酸化アルミニウムの気相成長に適用し、従来よりも粒子数を増やした系におけるクラスターの構造決定も試みる。 これまでの実験で、結晶化の最大の障壁である脱水和の前に、タンパク質がランダムに集まり、その後の脱水和過程に伴って結晶化が進むという、タンパク質の新たな結晶化過程が示唆されている。非晶質粒子の脱水和による結晶化は、炭酸カルシウムにおいても仮説が立てられているプロセスであり、一般的な核生成プロセスの可能性がある。最近、タンパク質の結晶化初期過程に特徴的な欠陥構造が現れることを観察から見出しており、時々刻々と変化する欠陥構造が成長速度や結晶多形の変化を引き起すことが分かってきた。光学顕微鏡下における蛍光プローブを用いたpHの2次元可視化や反応経路自動探索法によって水和層の役割を調べるアプローチや、イオン液体中での核生成のTEM中“その場”観察実験と合わせ、ナノ領域の物性と水和層を考慮した核生成モデルの構築を目指す。
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