研究課題/領域番号 |
15H05733
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
平山 秀樹 国立研究開発法人理化学研究所, 平山量子光素子研究室, 主任研究員 (70270593)
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研究分担者 |
寺嶋 亘 国立研究開発法人理化学研究所, 平山量子光素子研究室, 研究員 (30450406)
鎌田 憲彦 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (50211173)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | 量子カスケードレーザ / 窒化物半導体 / 結晶成長 / 超格子 / テラヘルツ |
研究実績の概要 |
量子カスケードレーザー(QCL)は、5~12 THz及び3μm以下の波長の動作は不可能であり、動作範囲も大幅に制限されている。本研究は、窒化物半導体を用いてQCLの動作範囲を大幅に拡大することを目的とする。窒化物半導体のLOフォノン吸収エネルギーはGaAsの約3倍と大きく、未踏周波数を含む3~20 THzの動作が可能となる。また、伝導帯のバンド不連続値は最大で1.9eVと極めて大きいため1~8μm帯のQCLが可能となり、QCLの動作範囲を飛躍的に拡大することができる。我々は、GaN系QCLの作製に着手し、世界で初めてのレーザー発振に成功した。本研究では、これまで培ってきた窒化物の高品質成長技術を進化させ、また「純粋3準位量子構造」と「間接注入機構」を融合させた革新的量子設計を取り入れることにより、未開拓領域を含む幅広い周波数範囲のQCLを実現することを目標とする。 H27年度は、これまで主に用いてきたMBE法に加えて、より転位密度の少ない結晶成長が可能であるMOCVD法を用いてGaN/AlGaN系QCL構造を作製することを目的として、高品質、高精度超格子成膜のためのMOCVDリアクター構築を行った。また、MBE法を用いて「純粋3準位量子構造」GaN/AlGaN系THz-QCLを作製し、より高温動作を目指した研究を行った。その結果、本研究当初、動作温度は5K程度であったが、本年度は最高動作温度40K以上を実現した。また、QCLからのレーザー光の偏光特性を測定し、TMモード発振であることをGaN系QCLとして初めて確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究で予定していたGaN系QCL結晶成長専用のMOCVDリアクタの構築は順調に進んだ。H28年度ではH27年度で構築しきれなかった材料ガス供給装置を作製して装置を完成させ、MOCVDによるGaN系QCLの作製を開始する予定である。MBEを用いたGaN系 QCLの試作では、最高動作温度40K程度が確認され進歩が見られた。GaN系QCLの土台となる結晶成長、素子化プロセス及び測定技術がほぼ確立し、ある程度の再現性が確保されてきたため、本研究は全体的に順調に進んでいると考えられる。今後は、基礎技術を基にしてQC設計、素子構造を変化させ、室温に至る動作温度の向上と動作周波数の拡大を行う。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、「純粋3準位量子構造」に基づく革新的量子設計によるAlGaN/GaN系未開拓波長QCL設計と低閾値・高温動作の実現、MBE法に加えMOCVD法を用いたGaN/AlGaN多層QCL構造の高品質・高精度成長技術の開拓、片面及び両面金属導波路型QCL構造作製によるTHz帯QCLの実現と室温発振の実現、AlGaNクラッド層もしくは誘電体光閉じ込め層を有するQCL構造作製による中赤外QCLの実現とその高性能化、の4つの研究指針を進行させることにより、窒化物半導体・未開拓波長QCLを開拓していく計画である。 次年度は、引き続き「純粋3準位量子構造」に基づくTHz-QCLの設計と試作を行い今後の高性能化の指針を示す。量子カスケード構造を現在の150周期よりも多段に成長し、光閉じ込め係数を大きくすることで、光利得の増加を行い200K以上におけるレーザー発振を目指す。また、動作周波数に関しても設計の幅を広げて、5-20 THz領域広範囲の実現に挑戦する。現在用いている、LOフォノン散乱による間接注入機構を用いた量子構造では1モジュールあたりの電圧ロスが大きく、印可電圧が高く効率が低いのが問題である。今後は、より低電圧で動作する、バンド-連続準位間遷移を用いた量子構造を試み、低電圧GaN系QCLを試作する。MOCVDを用いたGaN系QCLの作製を開始する。成長温度を低減することにより原子1層程度の急峻なヘテロ界面の作製を試みる。結晶欠陥が少なくまた急峻なヘテロ界面も得られるMOCVDを用いてGaN/AlGaN系QCLの高性能化の指針を得る。
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