研究課題
これまでに,スピンダイナミックスまで含めた時間分解STM測定を可能にしてきたが、トンネル電流として得られる信号は通常の光学的な測定に比べて非常に微弱であり、光強度が格段に弱くなる励起波長での測定は困難で、対象がGaAsを主とする材料に限られていた。そこで、多様な系を対象とした時間分解STM測定が可能になるよう新しい励起システムを構築し新しい物理を探索することを目的とした。前年度は、波長変換を行いながら時間分解測定が可能となる励起系の仕組みを完成させ、目的とする試料の準備について新しい結果を得るなどの成果を得た。本年度は、同システムを用いた実験を進め、トポロジカル絶縁体(Bi2Te2S3)やMoS2単層、及び同試料上に2層目を島状に成長させた2層構造等を対象として時間分解測定を行う事に成功した。また、WS2上に形成したWS2/MoS2ヘテロ構造界面で、新しい準位が形成されることを見出し、前年度に続きNature系の雑誌であるScientific Reportsに発表した。更に、測定をTHz領域に展開し、単一パルス内の位相(carrier envelope phase: CEP)を制御することで、STM探針に印加する電場(従ってトンネル電流)をサブサイクルでコヒーレントに制御することに成功した。同成果は、Nature Photonicsに掲載された。その後、HOPGを試料としてTHz誘起電流で原子像を取ることにも成功している。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度は,まず高強度レーザーのシステムを導入し,波長変換を行いながら時間分解測定が可能となる励起系の仕組みの開発を進めるとともに,時間分解測定に向けて試料の電子構造の可視化などの予備実験を進めた。そうした中,研究対象の1つであるTMD(二次元遷移金属カルコゲナイド)試料に対し,ダイナミックス測定の為の準備が予定より速く進み,単層pn接合界面の内部電界の変調を原子レベルで可視化することに初めて成功した。同成果はNature系の雑誌であるScientific Reportsに掲載された。本年度は、開発した時間分解システムを適用し、トポロジカル絶縁体(Bi2Te2S3)やTMDを対象として目的とする時間分解の信号を計測することに成功した。また、試料の準備としてはWS2上に形成したWS2/MoS2ヘテロ構造界面で新しい準位が形成されることを見出し、前年度に続きNature系の雑誌であるScientific Reportsに発表した。TMD系では、Reを加えた歪みよる電子状態の変調など、他にも新しい結果が得られ、時間分解の対象としての評価も終えている。更に、THz領域に展開する試みでは、単一パルス内の位相(carrier envelope phase: CEP)を制御することで、STM探針に印加する電場(従ってトンネル電流)をサブサイクルでコヒーレントに制御することに成功し、同成果は、Nature Photonicsに掲載された。その後、HOPGを試料としてTHz誘起電流で原子像も得られている。これにより、THzを用いた時間分解測定の道も拓け、測定対象も大きく広がった。
初年度に導入した波長可変レーザーシステムを用い、トポロジカル絶縁体やTMD(二次元遷移金属カルコゲナイド)の測定データを追加・整備し、インパクトのある雑誌に投稿する。その際、試料温度など諸々の制限はあるが、現有の多探針STMを用いることで、本研究でしか扱えない局所ダイナミックスの計測法として特徴付ける。ナノスケールで伝導特性を時間分解測定できるシステムは他には無く,異方性を含めた局所物性の動的な評価を可能にすることで,新しい世界が拓けることになる。TMDでは,新たな電子状態の形成を示す結果などが得られており、これら試料に対しても時間分解測定を進める。また、THz領域への展開については、真空対応のTHz-STMの基本システムを完成させ、相転移の時間分解測定などを試みる。現有設備ではTHz以外にCEPロックしたパルス光を得られないため、そのままでの実現は困難であるが、CEP制御によるサブサイクル分光への展開を図るための準備も進める。得られた結果は,論文発表,国内外の会議で発表し,広く世に発信する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (34件) (うち国際学会 13件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
J. Electron Microsc. (Kenbikyo)
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