研究課題/領域番号 |
15H05736
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
浜口 智志 大阪大学, 工学研究科, 教授 (60301826)
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研究分担者 |
笠井 秀明 明石工業高等専門学校, その他部局等, 校長 (00177354)
Dino Wilson 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60379146)
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研究期間 (年度) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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キーワード | 反応性プラズマ / プラズマ表面相互作用 / 数値シミュレーション / プラズマ加工 |
研究実績の概要 |
近年、プラズマを用いた表面改質は、半導体デバイス製造プロセスから、バイオ材料プロセスまで、産業界で幅広く活用されている。これらの最先端の応用プロセスでは、低い入射エネルギーや紫外光の影響下での非熱平衡化学反応が、様々な新規基板材料に対して利用され、これまでのプラズマ表面相互作用の学術体系では、理解不能な様々な現象が確認されている。こうしたデリケートな非熱平衡表面化学反応を理解するためには、量子論的解析が必要不可欠である。本研究では、量子シミュレーションを最大限に活用した、多階層シミュレーションを用いて、低エネルギーイオン照射による原子層プラズマプロセスの物理機構を理解するための学術基盤を確立することを目的とする。これにより、ラジカルや活性酸素(ROS)による化学反応が主体となる最先端半導体プロセスやプラズマバイオプロセスの新しい学術体系の創生が可能となると期待される。今年度は、一部の予定を前倒しして、金属酸化物であるZnO とITO 薄膜の炭化水素プラズマによるエッチング機構の解明と、細胞培養容器として広く用いられているポリスチレン表面への、プラズマ処理によるアミノ基形成プロセスを解析した。その結果、炭化水素系イオンビーム、水素イオンビーム、不活性ガスイオンビーム等のZnO とITO基板への照射実験で得られた結果が、ZnO およびITOの内部への水素原子蓄積による表面改質によって説明できることが明らかとなった。ポリスチレン表面のプラズマ照射実験では、表面にアミノ基が形成されるものの、第1級アミンの形成は少ないことが、プラズマ照射後のポリスチレン表面の誘導体化法による解析と、MDシミュレーションの結果から明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
微細加工プロセス解析に関しては、上述したように、今年度、一部の予定を前倒しして、金属酸化物であるZnO とITO 薄膜の炭化水素プラズマによるエッチング機構の解明をテーマとして理論的・実験的研究を行い、そのエッチング機構の概要を明らかにした。理論解析としては、第一原理シミュレーションを用いて、金属酸化物であるZnO, InOのエッチングにおけるH原子との相互作用を調べた。正イオンとして入射された水素は、表面でオージエ効果により電子を得て、中性原子化し、高い入射エネルギーのため、基板奥深くまで侵入する。これにより、ZnO層は改質され、運動量の大きなイオンのインパクトにより、スパッタリングイールドが上昇することが、理論的に確認された。実験では、各種イオンビームのZnOやITO基板への照射実験を行い、スパッタリング・イールドのエネルギーや入射イオン種依存性、表面改質状態を明らかにした。一方、バイオ材料プロセス解析においては、研究計画にどおり、培養皿材料であるポリスチレン表面におけるアミノ基形成の分子動力学(MD)シミュレーションを行い、その結果を、窒素・水素あるいはアンモニアプラズマ照射による実験結果と比較した。その結果、低温インバータ―プラズマ装置により生成されたアミノ基と同様に、第一級アミン(-NH2)の割合は少ないことが、実験結果とシミュレーション結果により明らかになった。また、あわせておこなったプラズマプロセス後のiPS細胞培養実験では、窒素・水素あるいはアンモニアプラズマによる培養皿表面処理が、iPS細胞培養に有効であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
微細加工プロセスに関しては、現在、前倒しで行っているZnOおよびITOの表面改質について、第一原理シミュレーションおよびイオンビーム照射実験を引き続き行う。また、これらの結果を基に、ZnO およびITOに関する古典的原子間相互作用モデル(反応性力場モデル)の構築を行い、ZnOおよびITOへの炭化水素系イオン入射MDシミュレーションを行う。また、水を含んだ第一原理シミュレーションによる水和イオンや活性酸素(ROS)と炭化水素表面の相互作用解析を行う。実験研究では、上述のイオンビーム実験のほか、引き続き、インバータプラズマを用いたバイオ材料プロセス実験と表面解析を行う。
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